閃亜鉛鉱の蛍光 Fluorescence of Sphalerite
夜中、鉱物標本にブラックライトを当ててあそんでいたら、すでに紹介した松峰鉱山産の黄銅鉱標本の中に変わった光を放つ部分を発見。黒っぽい鉱物がポツポツと散在していて、それらが発光しているようだ。いままで気づかなかった。結晶の感じからして、これらは閃亜鉛鉱と断定。いろいろしらべると、閃亜鉛鉱(ZnS)は立派な蛍光鉱物であることがわかった。たとえば木下亀城「原色鉱石図鑑」(増補改訂版、保育社)の蛍光鉱物の表では、閃亜鉛鉱は「橙」の地位を得ている。また蛍光鉱物についてまとめたウェブページの情報(www.fluomin.org)によると、発色の原因はマンガンや銅原子の混入にあるらしい。
松峰の標本の蛍光は、やや赤っぽい橙色、というところか。手元にある閃亜鉛鉱をかたっぱしから調べたところ、比較的発色良好だったのが、同じ大館市内の黒鉱鉱山である深沢鉱山産で、色はやはりオレンジっぽい(下の写真を参照)。釈迦内の黄鉄鉱標本にくっつく黒っぽい部分も同様に発光したので、おそらく大館近辺の黒鉱鉱床の閃亜鉛鉱は蛍光するとみていいだろう。結晶質でない、塊状のいわゆる黒鉱鉱石はどうなんだろうか?手元に適当な標本がないので実験できない(国立科学博物館の標本にブラックライト当てたら怒られるかな)。小坂の黄銅鉱に付随する閃亜鉛鉱は、ほとんど反応しないが、ごく一部、スポット的に蛍光した。尾去沢も同様。でも尾太や秩父、神岡はまったく光らず。ともかく閃亜鉛鉱の蛍光は、ある限られた産地にだけ見られる性質のようである。
I found unusually colored spots on a previously shown chalcopyrite specimen under a black light. They originate from small black sphalerite crystals. Sphalerite is fluorescent, classified into a mineral group luminescing orange. The primary activators are manganese and copper (see www.fluomin.org). The color of the Matsumine specimen is reddish orange. Other sphalerite samples in my collection are not strongly fluorescent but Fukasawa (see below) and Shakanai samples, which are from kuroko mines near Matsumine, suggesting sphalerite included in kuroko ores around Odate is generally fluorescent. I would like to see more samples.
方鉛鉱・閃亜鉛鉱・黄銅鉱 Galena, Sphalerite, Chalcopyrite
黄鉄鉱をベースに、これら3種の鉱物が結晶する。冒頭の松峰の標本と異なり、石英はほとんどみられない。方鉛鉱と閃亜鉛鉱とは、ともに黒っぽいので、ぱっと見、区別がむずかしいが、UVライトを当てると違いがはっきりする。深沢鉱山の黒鉱鉱床は1969年に発見され、1993年まで採掘された。
These three minerals crystallize on a pyrite base. Almost no quartz is seen contrary to the Matsumine's specimen. Kuroko deposits of Fukasawa were found in 1969, and mined until 1993.
補足
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「蛍光鉱物の晒処」によると、尾去沢のべっ甲亜鉛に蛍光するものがあるそうだ。
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天然の閃亜鉛鉱(ZnS)の亜鉛原子の一部は、鉄で置き換えられているのがふつうで、鉄が多いほど外見が黒くなる。カドミウムとマンガンも数%入ることがある。閃亜鉛鉱には他にも多くの微量元素が認められ、とくにガリウムとインジウムは、閃亜鉛鉱の蛍光スペクトルを端緒として発見された(たとえば加藤昭「主要鉱物各説」無名会 2017 など)。
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歴史的には、合成された硫化亜鉛がもっとも初期の(19世紀末)実用に耐える蛍光物質であった。20世紀初期の物理学の研究で、シンチレーター(放射線のつよさを測る装置)につかわれたのも硫化亜鉛(に微量元素を添加したもの)で、ほかにもたとえば置き時計の文字盤で、暗がりでも見えるようにしてあるやつにも使われた。なぜ硫化亜鉛がえらばれたのか、おそらく、閃亜鉛鉱がもともと蛍光鉱物であることに加え、おどろくほど多種多様の元素が亜鉛を置換できるという性質から、蛍光をコントロールするのが容易だったのだろう、わからんが。このあたりも、鉱物学の研究が世の中に生かされていく過程を示す好例といえるだろう。Wikipedia の「硫化亜鉛」とか「蓄光」とかを参照。
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一応、尾去沢のべっ甲亜鉛標本の写真を以下にしめす。べっ甲亜鉛本体はたいして光らないが、黄銅鉱と共生する塊状の部分にオレンジ色のスポットがある。
追記(2019年5月)
松峰に隣接する釈迦内鉱山の透石膏標本が手に入ったのでこれも紹介する。母岩部分は細かい黄鉄鉱結晶があつまった、ガサガサした感じの鉱石だが、閃亜鉛鉱が炭火のようなオレンジ色に明瞭に蛍光する。砒四面銅鉱をともなう。