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Showing posts from December, 2019

足尾の黄銅鉱 Chalcopyrite from Ashio

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栃木県日光市足尾町 足尾鉱山 Ashio Mine, Nikko City, Tochigi Prefecture, Japan 標本幅 width 65 mm / 重さ weight 88 g  ほぼ黄銅鉱と石英のみからなる。黄銅鉱の結晶は径 8 mm 内外。大きめの水晶が一本突き出ている。一般に黄銅鉱の結晶の形は四面体の面(p面)で囲まれるものが基本であるが、完全な四面体(あるいは八面体)というのはまれで、その他さまざまな結晶面をみせたり、面が湾曲したりするものである。この標本の黄銅鉱はいかにも足尾産と思わせる独特なもので、秋田の荒川、小坂、尾去沢あたりの標本とはあきらかに晶相が異なる。正確な結晶面こそ同定できないが、少なくともp面が明確にあらわれず、全体に丸みをおびている。独特な条線があらわれていて、柔らかい反射光を放っている(ちなみにこの条線の段々の各面はp面である)。 以前紹介した秩父・大黒産の黄銅鉱 と似ているが、秩父はスカルン型なので、炭酸塩がふんだんに散りばめられているところが異なる。 Chalcopyrite of 8 mm in size crystalizes with quartz. In general, chalcopyrite is basically enclosed by tetrahedral (or octahedral) surfaces, but the surface is often curved or other various crystal surfaces appear. This specimen completely lacks the tetrahedral surface and the shape is rather rounded, which is characteristic in Ashio and apparently different to chalcopyrite from Arakawa, Kosaka and Osarizawa mines in Akita. Clear striation, which is composed of many tetrahedral surfaces, makes a characteristic reflection of

高島屋酒器展 2019 Sake Cup Exhibition at Takashimaya

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柳下季器 伊賀ぐいのみ Hideki Yanashita, Iga sake cup. 幅 width 6.5 cm / 高さ height 4 cm 年の瀬恒例の酒器展をみに日本橋高島屋にいった。12月18日からやっているのでめぼしいものはすでに売れているようだが、これだけいろんな作家さんの器をみる機会はそうそうないので、毎年おもしろい展覧会である。伊賀焼に特徴的な緑がかった釉薬がかかる。伊賀焼というと個人的には表面がゴツゴツして、水漏れもいとわない、みたいな荒々しいイメージがあるが、この器はどこかもの静かな感じがする。裏返すとちゃんと高台がついているが、腰が張っていて、テーブルにおくと間隔 1 mm くらいのすれすれで下につかないのが、作者の計算なのかどうかわからないが、ユニークである。

黄銅鉱のスピネル式双晶 Chalcopyrite Spinel-law Twins

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Ticlio Mine, Morococha District, Yauli Province, Junín Department, Peru (ペルー・ティクリオ鉱山) 標本幅 width 13 cm / 重さ weight 775 g  塊状の黄銅鉱をベースにして、無数の細かい石英が立体的に結晶し、その上に径 8 mm までの黄銅鉱のシャープな8面体結晶が散らばる。黄銅鉱が正方晶( 2a : c = 1 : 0.985 )であることにくわえて、8個すべての面が等大に発達しているわけではないので、ややいびつな多面体になってはいるが、まさに教科書どおりの結晶面だ。特筆すべきは2つの8面体がくっついてスピネル式の双晶をなすものが多数存在するところである。 Octahedral crystals of chalcopyrite to 8 mm in size are sprinkled over a sculptural fine quartz cluster that sits on a base of massive chalcopyrite. Remarkably there are spinel-law twins of chalcopyrite. ふつうの黄銅鉱よりやや白っぽい。 The color is whiter than usual ones. のっぺりした黄銅鉱がベースになっている。 Massive chalcopyrite in the backside. Goldschmidt の Atlas der Krystallformen より。Fig.58 や 59 に似た結晶がみられる。 From Goldschmidt's Atlas der Krystallformen. Crystals like Figs.58 and 59 exist. 以下私見になるが、一般に自形の黄銅鉱は結晶面が湾曲していたり、複雑な連晶をなしていたりして、教科書どおりの単純な形になることが稀である。黄銅鉱のスピネル双晶なんてわたしは初めて見た。ティクリオ鉱山の鉱床がどのようなタイプのものなのかよくわからないが、この標本を見るかぎり、まずメインの黄銅鉱がドサッと固化し、その後微細な石英が、そして少量の黄銅鉱が順次晶出し

沖縄の旅 A Trip to Okinawa

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はじめて沖縄に行った。写真は糸満市の平和祈念資料館の最上階からながめた沖縄の海。このあたりは石灰岩の台地で、海岸は崖になっている。沖縄の石灰岩台地にはガマ(洞穴)が至るところにあり、沖縄戦ではそこで幾多の痛ましいできごとがあった。 I went to Okinawa for the first time. The photo is a view from the top floor of Okinawa Prefectural Peace Memorial Museum, Itoman City. This area is a limestone flatland, and the seashore becomes a cliff. Many caves in Okinawa's limestone area became the places of tragedy during the Battle of Okinawa. いままでなんだかんだで沖縄に行ったことがなかったが、思い立って旅に出た。朝一の飛行機で那覇空港に降り立ち、まずは 沖縄県平和祈念資料館 で沖縄戦の歴史を学んだ。昼ごはんは「 屋宜屋 」というたいへん趣のある古民家そば屋で、おいしいアーサそばとジューシーをいただいた。建物は国の登録有形文化財に指定されているそうだ。その後 おきなわワールド という施設内の鍾乳洞を見学して紅型(びんがた)のコースターづくり体験などして楽しんだ。それから那覇市内の国際通りでぶらぶらお店を見て、夜は居酒屋で沖縄料理。翌日、うるま市の具志川ドームでおこなわれた沖縄巡業をみた(これが旅の目的だった)。うるま市は相撲が盛んな土地のようで、美ノ海と木崎海の兄弟はここの出身である。会場の具志川ドームは相撲場として2009年に建設され、ここ数年は沖縄巡業が12月にここでおこなわれている。以前、関東でおこなわれた巡業を見にいったことがあるが、沖縄巡業はのんびりした雰囲気でとてもよかった。碧山の表彰式を見届けたあと、すぐさま美ら海水族館へ。ジンベイザメの泳ぐ大水槽はやっぱりすごかった。 沖縄の旅でもっとも印象に残ったのは、民家の塀や土台や敷石にふんだんにつかわれている石灰岩である。実にうつくしく、沖縄の風土にマッチしている。わたしの一番好きな鉱物は方解石ということ

東京ミネラルショー 2019 Tokyo Mineral Show

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日曜日、 東京ミネラルショー(池袋ショー) を2時間ほど駆け足で見て回った。以下、お迎えした3点ほどを紹介する。 Last Sunday I looked around Tokyo Mineral Show (Ikebukuro Show) just for two hours. Here I show three pieces that arrived to me. 1. 石門の石黄 Orpiment from Shimen Shimen, Changde, Hunan Province, China (中国湖南省常徳市石門) 標本高さ height: 45 mm / 重さ weight: 43 g ひとつ目は石黄(雄黄)の結晶標本。方解石をともなう。この産地の標本は堀秀道「楽しい鉱物図鑑」(草思社)でも紹介されている。濃いオレンジ色で半透明の立派な柱状結晶に惹かれた。アタマも出ている。実は同産地の標本が他店で売られているのを以前見たことがあるが、サイズが大きすぎて二の足を踏んだのだった。今回は大きさが手頃だった。 The first one is a specimen of orpiment with calcite from Shimen, China. Hori Hidemichi's famous pictorial book of mineral picks an orpiment specimen from the same locality. I liked the dark orange translucent well terminated crystals and the size was nicer to me than those I have ever seen. 2. サンマリーの赤鉄鉱 Hematite from Sainte-Marie-aux-Mines Sainte-Marie-aux-Mines, Haut-Rhin, France (フランス サンマリー) 高さ Height 4.5 cm つづいてサンマリー・ミネラルショーで有名なフランス・サンマリー=オーミーン産の赤鉄鉱。六角薄板状の結晶が何枚か積み重なって塊をつくり、それらが多数モザイク状に寄せ集ま

茨城県自然博物館を再訪 Ibaraki Nature Museum

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約1年半ぶりに ミュージアムパーク茨城県自然博物館 を訪問。写真は妙見山リチウムペグマタイト(茨城県常陸太田市)の巨大標本。マグマが地下でゆっくり固まって、その残液にリチウムが濃集して大粒の結晶をなしたもの。ピンクや緑色のカラフルな鉱物がみられる。 I went to Ibaraki Nature Museum after a year and a half since the last visit. The above rock is a huge specimen from lithium pegmatite at Myokenzan, Hitachi-Ohta City, Ibaraki Prefecture, Japan. There are green and pink lithium rich minerals. 前回訪問時 には、茨城県産の鉱物や岩石がなんでないんだろう、高取とか日立鉱山とかいっぱいあるのに、と落胆したのだが、じつは見学順路のさいごの方に茨城の自然を紹介するコーナーがちゃんとあって、ただわたしが見逃しただけなのであった。というわけで今回はそれも見学した。 上の写真は妙見山のリチウムペグマタイトの巨大な標本。研磨された上面の広さは畳2枚分近くある。ここで産出した鉱物については 櫻井欽一、他「茨城県妙見山のリチウムペグマタイト中の鉱物について」 (岩石鉱物鉱床学会誌、72巻 1号、1977)にくわしい。ピンクや緑、藍色などの鉱物はリチウムを含んだ電気石や雲母で、これらは日本では岩手県の崎浜、福岡県の長垂などごく限られた産地しか知られていない。妙見山の露頭は現在は自治体によって保護されているが、40年以上前の櫻井らの論文にも書かれているように、一部の脈は乱掘によってあとかたもなくなっているそうだ。そういう意味ではこうして公共の博物館で「露頭観察」できるのは望ましいことだ。鉱物鑑賞は趣味として楽しいけれども、研究用に小片を採取するぐらいならまだしも、欲に任せて再生不可能な鉱脈を不法に略奪する輩が今も昔も後をたたないことは、人間のもっとも醜い部分を見せつけられた気がして、恥ずかしい。 I mainly looked at displays of Ibraraki's geology, animals and pla

バイバーナム・トレンドの方解石と方鉛鉱 Calcite and Galena from Viburnum Trend

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Sweetwater Mine, Viburnum Trend, Reynolds County, Missouri, USA(アメリカ・ミズーリ州) 標本幅 width 6.5 cm / 重さ weight 94 g  アメリカ・ミズーリ州南東部にバイバーナム(ビバーナム)・トレンドと呼ばれる南北 50 km にもおよぶ帯状の鉛鉱床がある。ここで産出した鉱物標本をいくつか入手したので、まとめて紹介する。 Viburnum trend is a lead deposit in the southeast Missouri ranging 50 km from north to south. I have recently got some specimens from this locality. まずはスイートウォーター鉱山の方解石標本(冒頭の写真)。教科書どおりの六角柱の結晶群で、色ははちみつのような薄黄色。両錐のものが多く、端面はいわゆる釘頭状である。内部にクラックがあるのが残念だが、標本の大きさ、結晶のくっつき方のバランスがよかった。 The starter is calcite from the Sweetwater mine (see the top photo), forming honey-yellow textbook hexagonal cylinders mostly double terminated. 方鉛鉱が抜けたあとが空洞になっているのがわかる。苦灰石もみられる。 It looks that the place where a galena crystal once existed became a void. There is also dolomite. この標本の基盤部は方鉛鉱後のヌケガラのようだ。これはまず方鉛鉱の八面体結晶ができて、その後表面に細かい黄銅鉱が析出して中身の方鉛鉱がどこかにいってしまったもので、負の仮晶ともいわれる。日本の鉱脈型の鉱床では 重晶石後のヌケガラ石英 がしばしば見られるが、両者のでき方には共通点があるのだろうか? その他、よく観察すると金属光沢のある八面体結晶がいくつもみられる。この産地ではジーゲン鉱(シーゲン鉱 Siegenite; CoNi 2 S 4 )と呼ばれる