宮田又の黄銅鉱と方解石 Chalcopyrite and Calcite from Miyatamata
秋田県大仙市協和荒川 宮田又鉱山 裸馬ヒ
Raba Vein, Miyatamata Mine, Kyowa Arakawa, Daisen City, Akita, Japan
標本幅 width 80 mm / 重さ weight 199 g
石英と黄銅鉱とがからみあった塊状の銅鉱をベースとして,最大径 17 mm の,一部表面が赤銅色に変化した黄銅鉱結晶が群生し,さらに最大長 15 mm の方解石が多数のる。黄銅鉱はおおむね四面体状に結晶し,耳つき双晶をなすものもみえる。方解石は犬牙状というにはややシャープさを欠き,丸みを帯びる。探さないとわからないくらいの,ごく少量の黄鉄鉱もまじるが,金属鉱物はほぼ黄銅鉱のみ。この感じは,前掲の同産地の標本や,おとなり荒川鉱山の標本(1,2)と共通するものがある。なお裸馬ヒは宮田又の主たる銅鉱脈で,ここから三角式黄銅鉱が産出した(和田利雄,秋田県宮田又鉱山における鉱脈富鉱部の構造規制について,鉱山地質 45-46号,1961)。
Chalcopyrite crystals of the maximum size of 17 mm, partly colored in red brown, grow on a base of chalcopyrite and quartz mixture, in addition with calcite crystals of the maximum size 15 mm. Chalcopyrite is mostly tetrahedral and some form penetration twin with ears. Calcite is too rounded to be called scalenohedral. A few pyrite exist but almost all the metal minerals are chalcopyrite, which resembles previously shown samples from Miyatamata (1) and from Arakawa (1, 2). Raba (unsaddled horse) vein was the main copper deposit in Miyatamata, and is known to produce triangular chalcopyrite.
スカルン型の鉱床と違って,熱水鉱脈型の鉱山の脈石(鉱脈を充填している石で有用金属鉱物以外のもの)に方解石があらわれるのは比較的めずらしい。たとえば秋田県の鉱山で言えば,尾去沢ではほとんどみられない(堀純郎,尾去沢鉱山およびその付近の地質・鉱床,地質学雑誌,1940)。いっぽうここ宮田又や,不老倉鉱山などはむしろ産出が多い。とくに後者は,方解石の群晶中に大きな矢筈形(足袋形)の双晶が林立する標本を産出したことで知られる。
It is generally rarer to see calcite in a hydrothermal vein than in a skarn-type deposit. In metal mines in Akita, Osarizawa scarcely produces calcite specimens. However, Miyatamata and Furokura are rather abundant in calcite. Furokura is renowned for big calcite twins standing on a vein wall.
備考
後日入手した三角式とおぼしき同産地の黄銅鉱標本。
「宮田又鉱山誌」(進藤孝一,1980)という本にいろいろ鉱山のことが書いてあるので、以下にいくつか記してみる。
裸馬ヒは1941年頃に発見されたが、当時の経営母体である帝国鉱業開発の社長の俳号「裸馬」から名づけられた。それもあってか、宮田又の鉱山集落では俳句をたしなむ者が多かったという。
帝国鉱業開発は、戦時下の国策会社で、かなり無理な鉱山経営を余儀なくされた。戦後、会社は解散し、当時所有していた全国10の鉱山は新会社・新鉱業開発に引き継がれた。宮田又も含め、いずれも中小規模の鉱山である。
山あいの狭い土地に鉱山施設や住居が密集していたが、野球チームが強かったらしく、新鉱業開発傘下の鉱山との対抗戦でも好成績をおさめている。
戦時中は、朝鮮から徴用された100名ほどの労働者が宮田又に配属された。食料不足、重労働、そして差別的扱いに反発した「暴動」沙汰もあったらしい(実際は実力行使にいたる前に会社側から鎮圧された)。こうしたことは、おなじ秋田県で起こった花岡事件の例や、小説「蟹工船」などをひくまでもなく、相手が朝鮮人だろうが日本人だろうが、日本全国どこでも起こったことだろう。