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Showing posts from 2022

末広形の小猪口2種 Two Small Imari Cups

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これから紹介する、直立する高台から斜めに末広がりに口が開くような形の猪口を俗に広東(かんとん)碗形と呼ぶ。 These Guangdong-type old Imari cups are characterized as a broadening shape toward the top with a vertical bottom part. 染付 小猪口 捻文 Twist Pattern 18世紀 18th century 口径 top width: 72 mm / 高さ height: 51 mm / 高台径 bottom width: 45 mm 生掛け焼成(素焼きを省略して施釉する焼成法)をおもわせる温かみのある白磁に、濃淡2種のダミで立ち昇る煙が風にたなびくような文様を描く。モクレンの花びらのようにもみえる。古伊万里の文様としてはよくあるもののようだが、一体何をデザインしたものなのかよくわからない。以前紹介した「竹矢来」の猪口(一番下の写真)といろいろと共通点があるので、時代的にもおなじくらいのものかなと想像する。 The twist pattern painted with dark and light blues is relatively common in old Imari wares. It looks like a flower (morning glory or magnolia?). The background off-white glaze suggests that it was baked without an unglazed baking process. It is similar to another bamboo-fence cup (see a picture at the end) and I guess they were made at the same age. 胎土はオレンジ色に焼けている。ふつうの古伊万里とは焼け方がちょっと異なるのは生掛け焼成だからか、あるいは有田の土ではなくよその窯の製品だったからかもしれない。いわゆる「くらわんか手」の雰囲気もある。 染付 小猪口 花文 Flower Pattern 19世紀 19th c

尾去沢鉱山の閃亜鉛鉱と方鉛鉱 Sphalerite and Galena from Osarizawa

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Osarizawa Mine, Kazuno City, Akita, Japan (秋田県鹿角市 尾去沢鉱山) Size: 150 × 105 × 70 mm / Weight: 1.8 kg 尾去沢鉱山は閃亜鉛鉱の結晶、とくに褐色透明な「べっこう亜鉛」の結晶を多産したことでしられる。購入先の店主によれば閃亜鉛鉱の産地としては世界でも五本の指にはいってしかるべきだという。この標本の閃亜鉛鉱も、結晶面によって多少の差はあるが照りがよく、透明度も高い。なによりサイズが大きく、幅 5 cm に達する結晶も鎮座する。閃亜鉛鉱の周囲は方鉛鉱の結晶で埋め尽くされていて、これも見どころがある。骸晶が発達しており、結晶の成長速度が速かったことを示唆する。また結晶化終了後に銅を含んだ溶液が侵入したのか、方鉛鉱はちょっと緑色にくすんでいる。少量の黄銅鉱も付着する。閃亜鉛鉱にはそうした「汚れ」があまりつかないのは 以前紹介した標本 と同様である。 Osarizawa is known as a famous locality of brown transparent or translucent sphalerite, bekko-aen (tortoiseshell zinc) in Japanese. The dealer who sold me this piece said Osarizawa could be counted among the five best localities of sphelerite in the world. The sphelerite crystal is translucent and the biggest one is over 5 cm in size. The surrounding galena is skeletal in part, and is tarnished probably because of an inflow of copper-containing solution after crystalization. It is interesting that sphalerite is relatively clean, as another piece from Osarizaw

茨城自然博物館「ときめく石」展 Exciting Minerals: Exhibition at Ibaraki Nature Museum

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茨城県自然博物館 にて開催中の企画展「ときめく石〜色と形が奏でる世界」を見に行った。 本間ますみ によるペットボトルアート。水晶内部のクラックのようすがよく再現されていて、小人になった気分になる。 世の博物館というのは動植物や古生物の展示がメインだ。なんといっても生物界は種類が多いし、人間も生物の一種で親近感があるし、また生命の誕生や進化はそれ自体興味深い。いっぽう石ころなんてものは足が生えているわけでもなくただそこにあるだけで、おもしろみが少ない。われわれの身近にある鉱物の種類なんてせいぜい数十種類くらいだろう。こういう世の趨勢は致し方ないが、茨城県自然博物館はそれでもまだ「石」に対する愛を多少はもちつづけている施設であり、今回のような特別展の開催にはある種の良心をかいまみることができる。 以下はわたくし的にときめいた石で写真に収めたもの。 荒川の蝶形方解石双晶 Calcite butterfly-shaped twin from Arakawa Mine, Daisen City, Akita, Japan 秋田県大仙市 荒川鉱山 透明度の高い方解石の板状結晶が2枚結合した双晶。先の尖った槍状の結晶が異常に扁平に成長したもので、c軸がほぼ90度でまじわっている。かなりめずらしい晶癖だが、わたしが調べた限り最初に文献に出てくるのが1935年(「日本鉱物資料」続 第1巻、昭和10年)だったので、荒川鉱山の歴史でいうとかなり末期(昭和初年頃?)に産出したものと思われる。茨城自然博物館には三菱鉱業の技師だった南部秀喜(1897-1972)の鉱物標本が多数収められており、これもそのひとつかもしれない。南部が生野鉱山に就職したのが1917年(大正6年)で、荒川も三菱系列の鉱山なので、ちょうど鉱物収集熱に火がついたときに産出したとあれば、彼が職権(?)をつかってでもそれを手に入れたとしても自然な話である。 参考 : 堀秀道「南部秀喜さんと鉱物標本」(地学研究 vol.24 no.1〜6、1973年) 佐渡の白鉄鉱と重晶石 Marcasite and Barite from Sado Mine, Aikawa, Sado City, Nigata, Japan 新潟県佐渡市相川 佐渡鉱山

細倉鉱山の蛍石 Fluorite from Hosokura

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Hosokura Mine, Uguisuzawa, Kurihara City, Miyagi, Japan (宮城県栗原市鶯沢 細倉鉱山) Size: 120 × 105 × 55 mm / Weight: 940 g 日本有数の鉛・亜鉛鉱山だった細倉鉱山の鉱石の破片。黒っぽい方鉛鉱・閃亜鉛鉱、および白っぽい蛍石(フローライト)が交互に沈殿・結晶化して縞状の鉱石を形成した。とくに適当な断面で切ると同心円状の縞々があらわれるものを輪鉱(ring ore)と呼び、この標本もそれに該当するだろう。この独特の見た目に加えて、そもそも鉱脈型の金属鉱床で蛍石を多量に産出するところはそれほど多くはないので、われわれ愛鉱家としてはちょっと見過ごすことのできない産物である。 蛍石は透明感のある白色で、紫外線長波で青紫色に蛍光する。何かを中心核にして雪だるまが大きくなるように成長した節がある。そのもっとも外側の殻は蛍石で、表面はもこもこした腎臓状もしくはぶどうの房状の晶癖をしめす。細倉の蛍石は木下亀城「原色鉱石図鑑」(増補改訂版、保育社、1962年)でも紹介されているが、その蛍石は緑色である。同書には大分県尾平鉱山や兵庫県明延鉱山の同様の輪鉱の標本も掲載されている。 A kind of ring ore mainly composed of white fluorite and black sphalerite and galena, which is a famous natural product from the Hosokura lead-zinc mine. It is attractive enough as fluorite is not very common in hydrothermal veins in Japanese metal mines. Fluorite is translucent and becomes bluish purple under a UV light. The outermost crust is fluorite that shows a botryoidal surface texture. Similar ring ores from the Obira mine, Oita, and t

白岩焼の水指 Shiraiwa Water Jar

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19世紀 19th century 高さ height 21 cm / 口径 top width 12.5 cm / 胴径 body width 16 cm 褐色の釉薬を背景に青白色のなまこ釉が何本もしたたっている。荒々しさと柔和さとが共存しているようで、いかにも東北のやきものといった感じがする。台所等でつかう甕(カメ)としてはやや背が高く、勝手が悪そうだ。実際この器は前の所持者によって「白岩瀬戸 水指(しらいわせと みずさし)」としたためられた木箱に収まっており、生まれながらにしての茶器だったのではないかと考えられる。白岩焼の主力製品はカメやスズ(徳利)といった生活雑器だったが、茶道具も焼いたと伝えられており、これもどこかの茶道具商の注文品だったのかもしれない。共蓋は付属しない。 なまこ釉は一面は青白く発色しているが、もう一面はやや緑がかった褐色である。釉薬の厚さにムラがあったのか、窯の中で火のあたりが一様でなかったのか。底はべた底で、畳の上に直接置く器(細水指?)としてつくられたことを示唆する。古い秋田のやきものは往々にして白岩焼か楢岡焼か、またはもっと小規模の窯か、の区別があいまいだが、この器に関して言えば、箱書きを信用する限りほぼ確実に白岩焼と言えるので、資料としても貴重である。 Perhaps a typical Tohoku ceramic ware decorated with  namako glaze "icicles". It comes with a wooden box entitled "Shiraiwa Mizusashi " (a water jar used in a tea ceremony). The Shiraiwa pottery mainly produced bottles and jars of daily use, but also some tea-things in response to special orders. I think this jar was originally made as a mizusashi. The flat bottom suggests that this was intended to be placed o

東北の古いすず2点 Old Tohoku Sake Bottles

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むかし、東北あたりでは液体をいれる容器で口が狭いものを一般に「スズ」といった(口が広いやつが「カメ」)。いまのことばでいうと徳利で、おもに酒を貯蔵するのにつかった。戦前くらいの本にはこうした古い用語がみられるが(たとえば渡辺為吉「白岩瀬戸山」1933年)、現代ではこうしたことばを使う人にはめったに出会わないだろう。手元にある「新明解古語辞典」(第二版、三省堂)によれば、 すず 【酒壜】 錫製の口の細長い徳利形の酒器。「―を口へよせずっと飲み」[近松門左衛門・傾城仏の原] とあるのですくなくとも江戸中期頃までは全国的に通用する一般的な日本語だった(東北あたりでは陶器製でも「スズ」といったようだ)。 An old Japanese word suzu means a bottle that was mainly used to preserve sake . This word was widely used in Japan at least until the 18th century, and was probably not uncommon in the Tohoku region even in the early 20th century. 会津本郷焼 すず Aizu-Hongo Suzu 明治期 Meiji period (Late 19th century) 高さ height 27.5 cm / 胴径 body width 18 cm / 高台径 bottom width 11 cm 東京・有楽町の大江戸骨董市に出店している地元福島の業者より入手。やや青味がかった灰白色の釉薬がほぼ全体にかけられ、とくに首から肩のあたりは釉が下方に流れていて躍動感がある。ところどころ素地がみえていて斑唐津を彷彿とさせる、気がする。底に近い部分は褐色の下釉が見えているがうっすらとしかかけられておらず、ほとんど素焼きに近い。口や高台のつくりはていねいで手慣れた感じだ。どっしりして雄大な器形だが、持つと見た目ほど重くなく、作り手の技術の高さが感じられる。容量は一升二合(2リットル強)ほどで、明治頃出回ったスズとしては標準的なサイズである。 会津本郷は17世紀から連綿とつづく歴史あるやきもの産地で、おなじ福島県の相馬地方とともに

尾太鉱山の黄銅鉱 Chalcopyrite from Oppu

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青森県中津軽郡西目屋村 尾太鉱山 Oppu Mine, Nishimeya Village, Aomori Prefecture, Japan 標本幅 width: 9.5 cm / 重さ weight: 258 g いわゆるゲス板状の標本で、針状の水晶の上に径 1 cm にも達する黄銅鉱の結晶が多数のっている。少量の黄鉄鉱をともなうが、他の硫化鉱物はみあたらない。黄銅鉱のいくつかは平らな結晶面で囲まれる教科書どおりの単結晶を示す。一般に黄銅鉱は多数の結晶が結合して不規則な形状をなし、明確な結晶形をあらわさない場合が多いので、こういった標本はめずらしいといえる。ちゃんと測角したわけではないが、少なくとも2種類のひし形十二面体があらわれているようにみえる。 すでに紹介した同じ産地の標本 と似ている。 Several chalcopyrite crystals to 1 cm in size are perched on numerous quartz needles. No other sulfide minerals can be seen except for small amount of pyrite. Chalcopyrite generally tends to show complicated irregular accretion of small crystals. However, this example contains some textbook dodecahedral crystals with flat surfaces. There seem to be at least two types of dodecahedron. The crystals are similar to those of another piece from the same ore field . これは X(331) と y(313) からなる単結晶が2個接触したものとおもわれる。 Probably composed of X(331) and y(313). 中央のひし形の面が特徴的な結晶はおそらく m(110) と e(101) とからなる。 The rhomboid is probably m(

東北の古いやきもの3点 Three old potteries from Tohoku district

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山形の古い片口 を以前紹介したが、その後も東北のやきものに注目していくつかあつめてみた。一般に以下に示すような古い(といってもせいぜい150年前くらいの)生活雑器はそこまで芸術的・学術的に注目をあつめておらず、それがどこの窯で、何年前くらいに焼かれたのかはほとんど特定されていない。骨董屋のいう産地も得てして当てにならない。そのようなわけでタイトルに記した産地はまちがっているかもしれない。 Since I obtained an old Yamagata lipped bowl several months ago, I have been interested in potteries that once existed in the Tohoku district, Japan. As the following pieces of earthenware were mass-produced daily necessaries, their artistic and academic value is not very high. Even antique dealers can't exactly say when and where they were made. The origins are therefore quite unsure. もくじ 楢岡焼 甕 産地不明 片口 平清水焼 片口 補足 1. 楢岡焼 甕 Naraoka Pot 高さ Height 11.2 cm / 口径 Top width 10.8 cm / 胴径 Body width 11.5 cm / Bottom width 底径 6.7 cm 水道が普及する以前はどの家にも大きな水甕が何個か備えられていたものだが、これはそうした甕(カメ)の中でももっとも小型のもので容量は3合(540 ml)ほどである。台所で塩を入れておくのにつかわれたということで塩甕とか塩壺ともよばれる。胴および高台には赤黒いかんじのする濃い褐色の釉が、いっぽう縁に近い上部と内面とには青白い釉薬がそれぞれ施されている。後者は東北のやきものによくみられるもので一般に「なまこ釉」とよばれる。この甕のなまこ釉は厚くかかった部分は白く発