東北の古いすず2点 Old Tohoku Sake Bottles
むかし、東北あたりでは液体をいれる容器で口が狭いものを一般に「スズ」といった(口が広いやつが「カメ」)。いまのことばでいうと徳利で、おもに酒を貯蔵するのにつかった。戦前くらいの本にはこうした古い用語がみられるが(たとえば渡辺為吉「白岩瀬戸山」1933年)、現代ではこうしたことばを使う人にはめったに出会わないだろう。手元にある「新明解古語辞典」(第二版、三省堂)によれば、
すず【酒壜】 錫製の口の細長い徳利形の酒器。「―を口へよせずっと飲み」[近松門左衛門・傾城仏の原]
とあるのですくなくとも江戸中期頃までは全国的に通用する一般的な日本語だった(東北あたりでは陶器製でも「スズ」といったようだ)。
An old Japanese word suzu means a bottle that was mainly used to preserve sake. This word was widely used in Japan at least until the 18th century, and was probably not uncommon in the Tohoku region even in the early 20th century.
会津本郷焼 すず Aizu-Hongo Suzu
東京・有楽町の大江戸骨董市に出店している地元福島の業者より入手。やや青味がかった灰白色の釉薬がほぼ全体にかけられ、とくに首から肩のあたりは釉が下方に流れていて躍動感がある。ところどころ素地がみえていて斑唐津を彷彿とさせる、気がする。底に近い部分は褐色の下釉が見えているがうっすらとしかかけられておらず、ほとんど素焼きに近い。口や高台のつくりはていねいで手慣れた感じだ。どっしりして雄大な器形だが、持つと見た目ほど重くなく、作り手の技術の高さが感じられる。容量は一升二合(2リットル強)ほどで、明治頃出回ったスズとしては標準的なサイズである。
会津本郷は17世紀から連綿とつづく歴史あるやきもの産地で、おなじ福島県の相馬地方とともに東北民窯の源流のひとつとされる。19世紀以降は磁器も焼いており、全国的に見ても高い技術をもった産地であったといえる。現在も会津美里町本郷地区に多数の窯元が存在する。デヴィッド・ヘイル「東北のやきもの」(雄山閣出版、1974年)によると、「(古い会津本郷焼の)陶土は常に赤色か赤褐色で、ふつう小石まじりのざらざらした肌理で、白い小石が中によくはいっている」とあり、会津本郷焼の特徴といえるかもしれない。ここに示した白色系の釉薬の他、褐色の飴釉やそれらに緑色の釉薬を景色としてかけたものが典型的である。近藤京嗣・中西通「日本の古徳利」(みちのく陶庫、1982年)によると、東北ではわらや籾殻の灰を主体とした糠白と呼ばれる釉薬が多く使われるが、会津本郷の白釉の原料は岩石由来だという。
A standard-sized suzu decorated with a slightly bluish white-grey glaze. Aizu-Hongo is a historic town that has produced ceramics since the 17th century and also porcelains since the 19th century, known as one of the origins of the Tohoku folk potteries. A number of kilns are still active at Hongo, Aizu-Misato Town, Fukushima. David Hale, a potter and a scholar of English literature, wrote in his book published in 1974 in Japan that the clay of old Aizu-Hongo ceramics was red or reddish brown and tended to contain minute white pebbles. In a Japanese book "Japanese Old Sake Bottles" by Kondo Kyoji and Nakanishi Toru, there is a description that Aizu-Hongo's white glaze is made from minerals, though other Tohoku potteries often use rice straw's ash. Aizu-Hongo ceramics are commonly white, grey-white, or lustrous dark brown in color, and sometimes decorated with green glaze in part.
白岩焼または楢岡焼 すず Shiraiwa or Naraoka Suzu
これも前とおなじく一升サイズのスズ。器の形は似ており、この時代を反映するある種の様式美を感じさせる。このスズは会津本郷のに比べると底部がじゃっかんほっそりしている。青味の強いなまこ釉がまるい胴の上半分までかけられて、下半分は照りのある褐色の下釉が大きく顔を出している。こういう色の対比は秋田の白岩焼や楢岡焼によくみられる特徴だ。首がちょっとかしげているのはご愛嬌というか、いかにも田舎の雑器という感じがする。明治期の秋田では白岩と楢岡の2つの産地で似たような庶民向けのスズやカメを盛んにつくっていたので、産地の特定は難しい。骨董屋の見解によれば白岩の可能性がやや高いということだったが、そんなに古くないとすれば楢岡だろう。わたしには判別できない。
This suzu, coming from the north Tohoku Akita region, is similar to the above southern Tohoku Aizu-Hongo ware in size and shape, indicating a kind of beauty of the common style in the Meiji period. The namako glaze is more blue in color and covers just the upper half of the body. The way of highlighting the contrast to the brown glaze is characteristic in the Shiraiwa and Naraoka wares. It is very difficult to say whether it was made in Shiraiwa or Naraoka, because similar daily-use suzu and kame (jar or pot) were produced in both kilns at almost the same time.