茨城自然博物館「ときめく石」展 Exciting Minerals: Exhibition at Ibaraki Nature Museum

茨城県自然博物館にて開催中の企画展「ときめく石〜色と形が奏でる世界」を見に行った。

本間ますみによるペットボトルアート。水晶内部のクラックのようすがよく再現されていて、小人になった気分になる。

世の博物館というのは動植物や古生物の展示がメインだ。なんといっても生物界は種類が多いし、人間も生物の一種で親近感があるし、また生命の誕生や進化はそれ自体興味深い。いっぽう石ころなんてものは足が生えているわけでもなくただそこにあるだけで、おもしろみが少ない。われわれの身近にある鉱物の種類なんてせいぜい数十種類くらいだろう。こういう世の趨勢は致し方ないが、茨城県自然博物館はそれでもまだ「石」に対する愛を多少はもちつづけている施設であり、今回のような特別展の開催にはある種の良心をかいまみることができる。

以下はわたくし的にときめいた石で写真に収めたもの。

荒川の蝶形方解石双晶

Calcite butterfly-shaped twin from Arakawa Mine, Daisen City, Akita, Japan
秋田県大仙市 荒川鉱山

透明度の高い方解石の板状結晶が2枚結合した双晶。先の尖った槍状の結晶が異常に扁平に成長したもので、c軸がほぼ90度でまじわっている。かなりめずらしい晶癖だが、わたしが調べた限り最初に文献に出てくるのが1935年(「日本鉱物資料」続 第1巻、昭和10年)だったので、荒川鉱山の歴史でいうとかなり末期(昭和初年頃?)に産出したものと思われる。茨城自然博物館には三菱鉱業の技師だった南部秀喜(1897-1972)の鉱物標本が多数収められており、これもそのひとつかもしれない。南部が生野鉱山に就職したのが1917年(大正6年)で、荒川も三菱系列の鉱山なので、ちょうど鉱物収集熱に火がついたときに産出したとあれば、彼が職権(?)をつかってでもそれを手に入れたとしても自然な話である。

参考: 堀秀道「南部秀喜さんと鉱物標本」(地学研究 vol.24 no.1〜6、1973年)

佐渡の白鉄鉱と重晶石

Marcasite and Barite from Sado Mine, Aikawa, Sado City, Nigata, Japan
新潟県佐渡市相川 佐渡鉱山

佐渡鉱山は三菱系列で、南部も佐渡に滞在歴があることから、これも南部標本だろう。白鉄鉱は比較的低温の熱水から沈殿するとされ、ときに鍾乳石様の晶癖をしめす。この標本はまるで芋虫みたいな形で、なにかの化石とまちがってしまうかもしれない。重晶石は厚板状に結晶していて、北海道〜東北日本の日本海側の熱水鉱脈でよくみられる典型的な標本といえる。佐渡産の鉱物としてはほかにも水入り水晶が展示されていた。

三原の藍銅鉱

Azurite from Mihara Mine, Yoshii-cho, Ibara City, Okayama, Japan
岡山県井原市芳井町 三原鉱山

炭酸塩鉱物はときにこういう花弁状の晶癖をしめすが、これはまさに藍銅鉱の花というべき珍品である。どういう素性のものなのかよくわからないが、なにかの仮晶(仮像)というわけでもなさそうである。三原鉱山は岡山と広島の県境近くのスカルンに伴う銅鉱床を採掘したところだが、鉱物学的には多種多様の鉱物を産出したことで有名らしい。

タイの輝安鉱と蛍石

Stibnite and Fluorite from Thailand

輝安鉱の細長い結晶を蛍石が覆っているもの。mindat.org でこれと類似の標本を検索すると、タイ北部の無名の産地で1980年代おわり頃に一時的に少量だけ出たものらしい。まさに自然の神秘である。


本展は2023年1月29日まで。なお常設展の鉱物関係の展示スペースは現在閉鎖されていて、この企画展が終了後にリニューアルされるのではないかと期待している。