もこもこ鉱物 Globular Minerals
ミネラルショーなどで丸っこいもこもこした鉱物をみつけるとほしくなってしまう。
I can't suppress appetite for minerals of globular or botryoidal crystal habits.
1. 尾太の菱マンガン鉱 Rhodochrosite from Oppu
世界の菱マンガン鉱(ロードクロサイト)ファンのあいだでよく知られている尾太鉱山の特産品。尾太の菱マンガン鉱はほとんどがこのもこもこタイプで、よくあるような菱面体の結晶はむしろまれである。閉山から40年以上経っていて新たな産出はほとんど望めない一方、今後も鉱物愛好家の需要は一定数あると思われることから、将来的には貴重な標本となるだろう。
Botryoidal rhodochrosite is the Oppu mine's speciality known by world mineral collectors. Rhombohedral rhodochrosite is rather uncommon in Oppu. After more than 40 years since the closure of the mine, this type of rhodochrosite will be a rarity more and more.
2. ダリネゴルスクのボール状菱鉄鉱 Siderite Balls from Dalnegorsk
径 12 mm までの薄茶色のボールがいくつかくっつきあっている。方解石の扁平な菱面体結晶もみられる。これら球状物体は微細な菱鉄鉱の結晶が集合してできたものだ。小品ではあるが角度によってはコアラみたいな動物の顔にも見えてかわいい。ダリネゴルスクではもっと大きな菱鉄鉱ボールが産出しており、鉱物界の珍品といえる(たとえば mindat.org の写真)。
Small light-brown balls to 12 mm in diameter get together with a flattened calcite rhombohedron. The ball is made of tiny crystals of siderite. Dal'negorsk is known to produce much larger siderite balls as seen at mindat.org.
3. トレプカの方解石 Calcite from Trepča
パイ生地のような磁硫鉄鉱の薄板状結晶の集合を灰黒色のもこもこが覆っている。照りのある鉄閃亜鉛鉱も何粒かみられる。このもこもこはおそらく方解石(カルサイト)で、たぶんブーランジェ鉱の微細結晶が内包されることで黒く色づいているものと思われる。この手の黒い方解石はおなじ東欧のルーマニアの金属鉱山で産出するのが有名で、バラの花のようだったり、ボール状だったりする。トレプカではそれほど多産していないようだが、見た目からして同様の代物だろう。
Dark gray minerals forming a hemispherical shape lie on golden bladelike crystals of pyrrhotite. The associated mineral is probably calcite that is colored by inclusion of some black micro mineral. The impurity may be boulangerite, for similar Romanian black calcite is known and better described in the literature.
4. ヘルジャの輝安鉱 Stibnite from Herja
ここまで紹介したもこもこはすべて方解石グループの炭酸塩鉱物で、おそらくこのグループの結晶は球状に集合したがる性質があるのだろう。一方この標本はやや例外的である。径 4 mm までの黒いボールが晶洞の壁に付着していて、ボールの一個一個は微細な輝安鉱の柱状結晶が多数集合したものだ。以前モロッコのバナジン鉛鉱のもこもこを紹介したが、その感じと似ている。鉱物というはなにかの条件が備わると、このように球形になりたがるものらしい。
Three examples of globular crystals shown in the above are all carbonate minerals of calcite group. In that sense, the last example is exceptional because black balls to 4 mm in diameter are made of many stibnite crystals. I have shown a piece of Moroccan vanadinite of similar crystal grouping. Minerals want to gather to form a ball in a certain condition.
補足
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埼玉県立自然の博物館で2021年3月13日〜6月20日に開催された企画展「新収集品展」のパンフレットより「秩父鉱山鉱物コレクション」。2はサイズが明記されていないのでなんとも言えないが、球状の輝安鉱という意味ではルーマニア産と共通するものがある。
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丸い石というとノジュールというのがあって、顕微鏡で見ないとわからないくらいの極小結晶があつまった球状の塊をいう。多くは真ん中に異なる物質からなる核があり、そのまわりに微結晶が沈着・成長したもので、核からの元素の拡散とか化学反応、微生物の関与など、成因もケースバイケースでよく解明されていないものも多い。その他、コンクリーションという用語もあって、いまいち違いがよくわからない。能登の「こぶり石」なんかは形状が不定なのでコンクリーションの一種と言えるだろう。山形県の「月布石(つきぬのいし)」はまん丸なものやややいびつなものなどいろいろある。