秩父の板状方鉛鉱 Platy Galena from Chichibu
秩父鉱山大黒鉱床から産した鉱片で、これも前回にひきつづき先日の東京ミネラルショーの戦利品。上の写真で、右側の樹脂光沢を放つ黒色部分が閃亜鉛鉱、左側の白っぽく見えているのが方鉛鉱。その他、少量の石英と茶色い炭酸塩(菱鉄鉱?)とをともなう。大黒鉱床は石灰岩体に熱水が大規模に貫入して生じたので、このように炭酸塩鉱物が散りばめられるのがお約束である。
さてこの標本に特筆すべきは、方鉛鉱の八面体結晶がスピネル式双晶をなして厚板状になり、それらが多数平行連晶しているところ。一部愛鉱家のあいだでは「板状ガレナ(略称:バンガレ)」とよばれ、秩父鉱山の名物とされる。実は昨年の東京ミネラルショーでも同様の標本を手に入れたのだが、今回のほうがより結晶が立派で、閃亜鉛鉱もともなっていたので、今年もお迎えした。似たような標本を買い集める、ほとんどビョーキ、、、か。
This piece is also from my recent collection at Tokyo Mineral Show 2020. Seen in the above photo are sphalerite with resinous luster in the right and specular galena in the left, accompanied by some quartz and brown carbonate that testifies that Chichibu-Daikoku is a skarn-type lead-zinc deposit. It is remarkable that galena crystals are spinel-law twinned to form a large plate. I showed a similar platy galena last year.
クレーターのような穴がぽこぽこあいているところがある。また以前紹介したメキシコ・ナイカ鉱山の方鉛鉱と同様、成長丘が発達して段々畑のような幾何学文様がみえるところもある。これらは結晶成長が急速に起こったことによる骸晶の特徴なのか、あるいは成長終了後に融解したことを示すものなのか、いまひとつ判然としない。
There are several craters on the galena plate. And there is terrace-like structure with striations that is similar to the galena specimen from the Naica Mine, Mexico. I am not sure that these suggest rapid crystal growth or melting after crystal formation.
補足
板状方鉛鉱のおもな産地としてはダリネゴルスク(ロシア)、マダン(ブルガリア)、ナイカ(メキシコ)などがある。これらはいずれも大規模なスカルン型鉱床で、大黒との類似点がある。アメリカ・ミズーリ州のバイバーナム・トレンドはミシシッピ・バレー型の鉛・亜鉛鉱床であるが、そこで産出する板状方鉛鉱の研究では、鉱床形成初期に過飽和鉱液から比較的急速に晶出したときにできたと推定している。鉱床形成初期は八面体型、後期には立方体型の方鉛鉱ができるという。詳細は Richard Hagni (2018), Platy Galena from the Viburnum Trend, Southeast Missouri: Character, Mine Distribution, Paragenetic Position, Trace Element Content, Nature of Twinning, and Conditions of Formation. Minerals 8, 93 を参照。
栃木県・足尾鉱山でも板状の方鉛鉱が出たらしい(日本鉱物誌・改訂版(1916年)など)が、標本が現存するのかどうかしらない。