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Showing posts from February, 2019

方解石と黄鉄鉱仮晶 Calcite, Pyrite Pseudomorph

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埼玉県秩父市中津川 秩父鉱山 道伸窪鉱床 Doshinkubo Deposit, Chichibu Mine, Nakatsugawa, Chichibu City, Saitama 幅 width 60 mm / 重さ weight 118 g 方解石(CaCO 3 )は、全体としては犬牙状の結晶のようであるが、表面がゴツゴツしていて、結晶形成後に再び結晶化(もしくは溶解)作用があったことを暗示する。ほんのりピンク色を呈する。標本に添えられていたラベルには「含マンガン方解石」とあった。黄鉄鉱(FeS 2 )の結晶の一部は、最大径 2.5 cm ほどの薄板状に集合しており、もともとは別の鉱物があって、その後、黄鉄鉱に変化したことを示唆する。おそらく磁硫鉄鉱(Fe 7 S 8 、一般には Fe 1-x S)の仮晶だろう。赤銅色の塊状の部分が残っていて、微力ながら磁石を引きつけるので、ほぼ確実とおもう。 文献によれば、秩父の磁硫鉄鉱というと、赤岩鉱床がもっとも有名で、最大径 5 cm に達する六角板状結晶が知られている。表面が褐色の鉄水酸化物に変質しているのがほとんどで、一部は白鉄鉱化しているものがあるという。磁硫鉄鉱帯は石灰岩体のもっとも底の部分に発達するので、方解石との共生はありそうなことである。道伸窪は、赤岩の東方約 1 km ほどのところにあり、磁鉄鉱の鉱床がひろがっていた。磁硫鉄鉱も磁鉄鉱鉱床中に産出したが、このような径 2.5 cm クラスの大きな結晶がみられたかどうか、文献からはわからなかった。 Calcite forms a slightly pink scalenohedral crystal with a rough surface, implying a secondary crystallization (or dissolution). The original label was "manganoan calcite". Pyrite crystals gather to form a plate with a diameter of 2.5 cm, suggesting a pseudomorph of a different mineral species. The original one wou

梅花氷裂文のぞき猪口 Ume Blossoms and Broken Ice Nozoki-type Cup

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19世紀はじめ Early 19c 口径 top width 51 mm / 高台径 bottom width 38 mm / 高さ height 56 mm 池に張った氷の上に、梅の花が落ちているようすを図案化したもの。横向きに描いた花は、梅というよりは椿の花に見えなくもない。クモの巣みたいな、六角形の文様もあるが、これはなんなんだろう? 氷裂文様を全面に描いた猪口 はすでに紹介したが、この猪口の背景はその変形バージョンである。ふつう、のぞき猪口の縁の裏側は四方襷と相場が決まっているが、この猪口は、この部分にも割れた氷をモチーフにしたとおもわれる文様を描く。18世紀末あたりから徐々にはじまる、それまでの伝統から抜け出した、新しい古伊万里の作風を感じる(ような気がする)。 A design of ume (Japanese apricot) blossoms falling on a frozen pond. A blossom from lateral view rather looks like camellia ( tsubaki ). I am not sure what a hexagon like a spider web represents. A nozoki cup of broken-ice pattern is already shown, but this one is of another type. There is also a broken-ice pattern at the inside of the rim, where a train of rhombuses is drawn in most cases. I feel a new design of Imari ware beginning from the end of the 18th century. 「梅花氷裂」で検索したら、山東京伝作の同名の読本が1806年に刊行されている。古伊万里の図柄には、当時はやった文学とか歌舞伎とかをモチーフにしたものもあるそうなので、もしかしたらその頃のものかもしれない。 A book entitled Baika Hyoretsu (ume blossoms and broken ice; wr

桐花文 小猪口 Paulownia Small Cup

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18世紀後半 Late 18c 口径 top width 61 mm / 高台径 bottom width 38 mm / 高さ height 56 mm 桐の文様は古来格式が高く、身近なところでは花札の20点札に「桐に鳳凰」があり、硬貨の最高額面である500円玉にも描かれている。その点からすると、この猪口の注文主は、相当格式高い家柄の人か、見栄っ張り、かもしれない。このようなお尻が張ったチューリップ型の猪口は、わたくしの浅い経験からすると、18世紀後半頃から散見される。じゃっかん厚ぼったく、絵付けも甘いので、19世紀の古伊万里かもしれない。 A design of paulownia leaves and flower has been symbolic of high status. For example, the phoenix and paulownia is one of the five most high-ranking cards of Hanafuda (Japanese playing cards), and a similar design is used to decorate the face of 500 yen coin that is the most valuable Japanese coin. Therefore, a person who ordered this cup would be from a noble family, or be vain. From my experience, this tulip-like shape was popular after the late 18th century. This might be made in the 19th century because of its thickness and drawing.

閃亜鉛鉱の蛍光 Fluorescence of Sphalerite

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秋田県大館市松峰鉱山産の黄銅鉱標本をブラックライト下および通常ライト下で撮影して比べた。黄銅鉱の陰にうもれる黒っぽい鉱物がオレンジ色に光る。 A chalcopyrite specimen from Matsumine mine, Odate city, Akita, is photographed under UV and normal lights. Black crystals emit orange lights. 夜中、鉱物標本にブラックライトを当ててあそんでいたら、 すでに紹介した松峰鉱山産の黄銅鉱標本 の中に変わった光を放つ部分を発見。黒っぽい鉱物がポツポツと散在していて、それらが発光しているようだ。いままで気づかなかった。結晶の感じからして、これらは閃亜鉛鉱と断定。いろいろしらべると、閃亜鉛鉱(ZnS)は立派な蛍光鉱物であることがわかった。たとえば木下亀城「原色鉱石図鑑」(増補改訂版、保育社)の蛍光鉱物の表では、閃亜鉛鉱は「橙」の地位を得ている。また 蛍光鉱物についてまとめたウェブページの情報 ( www.fluomin.org )によると、発色の原因はマンガンや銅原子の混入にあるらしい。 松峰の標本の蛍光は、やや赤っぽい橙色、というところか。手元にある閃亜鉛鉱をかたっぱしから調べたところ、比較的発色良好だったのが、同じ大館市内の黒鉱鉱山である深沢鉱山産で、色はやはりオレンジっぽい(下の写真を参照)。 釈迦内の黄鉄鉱標本 にくっつく黒っぽい部分も同様に発光したので、おそらく大館近辺の黒鉱鉱床の閃亜鉛鉱は蛍光するとみていいだろう。結晶質でない、塊状のいわゆる黒鉱鉱石はどうなんだろうか?手元に適当な標本がないので実験できない(国立科学博物館の標本にブラックライト当てたら怒られるかな)。 小坂の黄銅鉱 に付随する閃亜鉛鉱は、ほとんど反応しないが、ごく一部、スポット的に蛍光した。尾去沢も同様。でも尾太や秩父、神岡はまったく光らず。ともかく閃亜鉛鉱の蛍光は、ある限られた産地にだけ見られる性質のようである。 I found unusually colored spots on a previously shown chalcopyrite specimen under a black light. They

尾去沢の菱マンガン鉱と黄鉄鉱 Rhodochrosite, Pyrite from Osarizawa

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秋田県鹿角市 尾去沢鉱山 Osarizawa Mine, Kazuno City, Akita, Japan 幅 width 100 mm / 重さ weight 297 g 母岩の小片のほぼ全面に、薄ピンク色で細々とした菱マンガン鉱(MnCO 3 )の菱面体結晶がつく。細かいパン粉をまとった揚げものみたいだ。黄鉄鉱がついている部分は球状でモコモコしているが、中まで黄鉄鉱なのかどうか、いまいちよくわからない。木下亀城「原色鉱石図鑑」(保育社)には、「尾去沢の菱マンガン鉱は白色の重晶石および真ちゅう色の黄鉄鉱の表面に菱面体の結晶をなす」とある。堀純郎「尾去沢鉱山およびその付近の地質・鉱床」(地質学雑誌 565号、1940)には、「鉱山南部の数脈に産する。重晶石とともに縞をなすことが多く、かかる場合重晶石より後に沈殿したものである。他の鉱物によって交代されていること少なく、紅色美麗なる結晶を保っている」とある。また南部秀喜「南部鉱物標本解説」によると昭和11年に赤沢七年ヒで美しい群晶が出たとある。 Tiny rhombohedrons of pink rhodochrosite cover almost all over a piece of bed rock. It is like a deep-fried food sprinkled with finely crashed bread crumbs. A part where pyrite crystallizes is globular. Kameki Kinoshita wrote in his book that Osarizawa rhodochrosite formed a rhombohedron on white barite or brazen pyrite. Sumio Hori (Journal of Geological Society of Japan 565, 1940) wrote that rhodochrosite was found in the southern deposits in Osarizawa as a banded ore with barite in most cases, crystallizing after barite and well p

アーカンソーの苦灰石と黄銅鉱 Dolomite, Chalcopyrite from Arkansas

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Black Rock, Lawrence County, Arkansas, USA (アメリカ・アーカンソー州) 幅 width 85 mm / 重さ weight 163 g 湾曲するピンク色の苦灰石(CaMg(CO 3 ) 2 )の結晶の集合に微小な黄銅鉱(CuFeS 2 )が散りばめられる。苦灰石は絹織物のような光沢があり、光の当たり具合によって白く見える。透明な方解石(CaCO 3 )の結晶も何個かつく。すでに紹介済みの 赤谷の苦灰石 も光沢があるが、表面はザラザラ感がある。 この産地 は、古生代前期の古い石灰岩・苦灰岩の層をおもなターゲットとする採石場のようだが、ところどころ硫化鉱物をともなう晶洞があって、このようなきれいな標本を産出するらしい。 Tiny chalcopyrite crystals are sprinkled on a pink dolomite cluster. Dolomite crystal surface is curved (saddle shape) and has a luster like silks. There are also small transparent calcite crystals. A previously shown Akatani's dolomite is also lustrous but the texture is rather rough. This locality is a quarry targeting Paleozoic limestone and dolostone, and there seem to be a few pockets in which such crystals grow with sulfides.

ドライスラーの重晶石と黄銅鉱 Barite, Chalcopyrite from Dreislar

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Dreislar mine, Medebach, Hochsauerlandkreis, Arnsberg, North Rhine-Westphalia, Germany (ドイツ・ドライスラー鉱山) 幅 width 100 mm / 重さ weight 420 g 重晶石(BaSO 4 )の板状(あるいはブレード状)結晶がいくつか平行に連晶してグループを形づくり、それらがモザイク状に寄せ集まる。表面には四面体を基調とする黄銅鉱(CuFeS 2 )のつぶつぶがくっつく。重晶石は一部ピンク色をしている。方解石ならそれはマンガンのしわざだが、重晶石でも同様なのか、詳しいことはわからない。堀秀道「楽しい鉱物図鑑」(草思社)の第6章「硫酸塩鉱物」の冒頭に掲載されている標本も同じ産地だが、さすが堀氏のコレクション、美的クオリティは及ぶべくもない。この標本は、京都の 大江理工社 の店内のキャビネットを物色してみつけた。 ドライスラー鉱山 は閉山してすでに10年以上たっているが、こういう古典標本がゴロゴロしているところが、さすが老舗標本店である。 Numbers of small chalcopyrite tetrahedrons are sprinkled over pink blades of barite. The pink color would be caused by manganese if it was calcite, but I am not certain this case. The locality is famous for this pink barite. There is a picture of barite from the same locality in a book written by Hidemichi Hori, which is far more beautiful than my collection. I found this specimen at Oherikosha, a mineral and fossil shop of long standing in Kyoto. 先月、 ホリミネラロジーのホームページ に、堀氏の訃報が掲載された。もっと早く鉱物あつめに火がついていたら、お目