白岩焼の小さなすず Small Sake Bottle from Shiraiwa
骨董商によると産地は特定できないものの、東北民窯の手で、江戸期はじゅうぶんある古いものだという。わたしの見立てでは、おそらく秋田県の白岩焼だろう。高さ 14 cm あまり、容量は 1 合半(270 ml)。このような小さなサイズのすず(徳利の古い呼び名)は東北あたりでは珍しい。
A small sake bottle probably produced in Shiraiwa, Akita prefecture. A shop owner couldn't say the exact locality, but it was made in the Edo period (mid or early 19th century). I think this small size (about 270 ml in volume) is rare in old Tohoku potteries.
渡辺為吉が昭和8年(1933年)に著した「白岩瀬戸山」によると、白岩焼の窯元のひとつである勘左衛門窯(ハ窯)が明治12年と明治15年に製造した陶器の数が資料として残っている。以下に白岩の主力製品だったすり鉢、かめ、すずの生産数を同書から引用する:
The following table shows the number of Shiraiwa Kanzaemon pottery's products in 1879 and 1882, reproduced from Shiraiwa Seto-Yama written by Watanabe Tamekichi in 1933.
品名 product |
明治12年 1879 |
明治15年 1882 |
計 total |
---|---|---|---|
すり鉢 mortar |
932 | 841 | 1773 |
かめ jar |
1407 | 1627 | 3034 |
すず bottle |
874 | 539 | 1413 |
すず2〜5升 big bottles |
27 | 17 | 44 |
1升 1.8 L |
187 | 149 | 336 |
5合 0.9 L |
201 | 114 | 315 |
1盃(4合) 0.72 L |
174 | 114 | 288 |
半盃(2合) 0.36 L |
129 | 45 | 174 |
豆すず small bottles |
156 | 100 | 256 |
すり鉢には他に「餌摺」と呼ばれる製品が、またかめには「金坪・五文瓜・豆かめ・茶かめ」と呼ばれる製品があるが表には含めていない。また当時の白岩にはほかにも窯があったので、全体としてはもっと出荷数は多かった。
興味深いことに、勘左衛門窯のすずの半数以上が5合に満たない小型のものである。1盃すずというのはいまの4合瓶に相当する。今回示したすずの容量は1.5合ほどなので、この表でいうと半盃には満たず、豆すずに相当するだろう。東北の古いやきものに興味をもって1年ほどになるが、記録上大量につくられたはずのこのサイズのすずが骨董店で売られているのを見たのは今回がはじめてだ。おそらくこうした豆すずは晩酌かあらたまった席のお膳のおあずけ徳利として頻繁につかわれたので破損する割合が多かったことに加えて、もっと軽くて便利な磁器やガラス器が普及したときに捨てられたのだろう。もっと大きい1升すずなどはいまでも散見するが、これは「あとでなにかに使えるだろう」みたいな感覚でとりあえず納屋にしまっておいたものが残っているのかもしれない。
Since developing an interest in old Tohoku cetamics a year ago, I have never before seen a Shiraiwa bottle of this size. However, the record shows that Shiraiwa produced a significant amount of bottles that were less than 0.3 liter in size. I guess that small-size bottles were used in a dinner or a formal banquet and were broken more easily than large ceramics. Large sake bottles are frequently seen in antique shops, most likely because people thought such large earthenwares could be used for anything and kept them for the time being.
参考
デヴィッド・ヘイル「東北のやきもの」(雄山閣出版、1974年)に掲載の白岩焼のすず2点。左は高さ 28 cm で1升サイズ。右は高さ 17.5 cm で小型のもの。
渡辺為吉「白岩瀬戸山」の復刻版(満留善、1979年)に掲載のすず2点。右の1升すずは独特な形状をしている。
斎藤敬造「日本の古徳利」(みちのく陶庫、1982年)に掲載の白岩の小すず。高さ 17.2 cm。これよりひと回り小さいすずはかなりめずらしいと思われる。
雑誌「民藝」2016年5月号(日本民藝協会)に掲載の豆すず。高さ 7.5 cm(ただし口が破損している)。酒器としてはちょっと小さすぎるとおもわれる。秋田県立博物館の所蔵品。