古い相良人形 Old Sagara Doll
船の上で子どもが二人微笑んでいるこの土人形は、山形県米沢市でつくられたもので、相良(さがら)人形の名でよばれる。いわゆる宝船に類した縁起物だろうか。ずいぶん古びていてはっきりいってボロボロだが、それ以上にこの表情と仕草とに和む。驚くほど多くの顔料がつかわれている。船の色は前に紹介した堤人形と同様の蘇芳(すおう)色で、江戸期の作風を感じる。船首には金泥が施される。着物の色も華やかだ。東北の他の古人形と比較した研究によると、相良人形には苔のような緑色が多用される傾向にあり、これは緑青(ろくしょう; 天然には孔雀石)の色だという(菊地和博、1989年)。この人形では左側の童子の着物が緑青である。
This clay doll, known as Sagara doll, was made in Yonezawa City, Yamagata, Japan. Though the doll is quite old, I was very impressed at the children's face and movement. Children on a boat is a common motif in Sagara dolls. Many colors can be found such as suo (sappanwood) red at the hull, goldish black at the bow, and moss green at the kimono, which was created by the verdigris (malachite) in Sagara dolls.
18世紀末、成島焼の創業に深く関わったことで知られる相良清左衛門厚忠がある種の余技として土人形をつくったのが相良人形の始まり。京都の伏見人形や仙台の堤人形の影響を受けている。各地のやきもの産地を視察して見聞を広めた厚忠が、わが米沢でも土人形を、と考えたのだろう。以降、相良家代々が一子相伝で人形作りの技術を伝えている。厚忠を初代として2代直厚、3代厚正までの江戸期〜明治初頭頃のものが古相良人形で、愛好家の評価が高い。人形づくりは太平洋戦争で一時中断したが、7代目の相良隆が1960年代に復活させた。当代は8代目隆馬。
At the end of the 18th century, Sagara Atsutada, known as one of the pioneers of the Narushima pottery, started creating clay dolls in Yonezawa. The dolls were influenced by Fushimi doll (Kyoto) and Tsutsumi doll (Miyagi). I guess that Atsutada who had wide knowledge of various ceramics in Japan wanted to create clay dolls in his homeland. The Sagara doll went down to his posterity. Old dolls of Atsutada, Naoatsu (the 2nd master of the Sagara-doll studio) and Atsumasa (the 3rd) are generally thought to be most valuable. The tradition was interrupted by the Pacific War, but Takashi (the 7th) revived making clay dolls in 1960s. The present master is Ryuma (the 8th).
参考
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相良人形の概要は:網伸也「出羽に継承された二つの土人形 : 相良人形と鵜渡川原人形に関する覚書」(民俗文化 32号、近畿大学民俗学研究所、p.207-221、2020年)。
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相良家代々の略歴については:清水澄「相良人形」(置賜文化 71号、p.24-29、1982年)。
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山形県立博物館には「梅津宮雄コレクション」とよばれる古人形コレクションがあり、民俗資料データベースで写真を閲覧できる。この収蔵品の分析に基づいた相良人形の特徴については:菊地和博「梅津コレクションにみる相良人形の形態的分析」(山形県立博物館研究報告 10号、p.89-109、1989年)。
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「東北の古人形 三春・堤・相良・花巻・鴻巣」(芹沢長介 編、東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館、1991年)に掲載の同手の相良人形:
ちなみにこの人形の目の描き方は「三角目(三角眼)」である。菊地(1989年)の分類に従えば「B型」で、相良人形に独特のものである。ただ相良人形のすべてがこの目なわけではない。
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山形県立博物館所蔵「梅津宮雄コレクション」の中の同手の人形4体:
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7代相良隆の作品。猿まわし(もしくは旅芸人)とおもわれる。相良隆は相良家代々のなかでも絵つけのうまさに定評があり、3代厚正に迫るとも言われる(清水、1982年)。