古伊万里の買い方 How to buy Imari ware

「自分も古伊万里(の猪口)を手元におきたい」とおもった方のために、おすすめの入手法を紹介する。

I introduce how to buy Imari ware in Japan from my experience.

二匹の蝶を陽刻であらわした瑠璃釉の変形皿(19世紀、幅 15.5 cm、大江戸骨董市にて入手)。
A blue-glaze butterfly plate (19th century, 15.5 cm, at Oedo Antique Market).

古伊万里の器は、キレイで、耐久性があって、実用性もあり、かつ値段も手頃(もちろんピンからキリまであるが)なので、趣味のアンティークとしてもっともおすすめできる。身近なところにひとつ、ふたつ古いものがあると、人生が豊かになった気がする。

以下、いくつかの観点から、猪口のみならず、食器としてつかえるような古伊万里の入手法、使用法について、私見をのべる。美術品としての古伊万里はわたしの守備範囲外なので、あしからず。

1. どこで手に入れる?  Where to buy?

まずは古美術店で買うのをおすすめする。古伊万里初心者は、実際にいろいろな品を手にとって、店主と話して、勉強しながら買うのがよい。古伊万里以外の品もあるだろうし、ともかく本物に触れ、目を肥やすのが目利きへの近道なのだ。

古美術店にもいろいろなランクがあるが、別に買わなくたって、見るだけだって、こちとら構うことはない。一流の店は客をえらばない。ただ、われわれがめざす18世紀以降の古伊万里が骨董品として珍重されだしたのは、たかだかここ数十年のことであり、古美術界では下手物。本当にランクが高いお店にはまず陳列されてない。その辺は適当に店を選んで。。。

骨董市もおすすめ。東京ビッグサイトで年2回やっている「骨董ジャンボリー」は、入場料がいるが、なにしろ出店数が多いので、一度にいろいろな品物を目にできる良い機会である。東京だと「平和島骨董市」(こちらは入場無料)も有名。あと露店の骨董市では、東京国際フォーラムでやってる「大江戸骨董市」も行きやすい。日曜には神社の境内などで青空骨董市が開かれているので、早起きしてでかけてみよう。

ネット購入も、とくに地方に住んでる人には便利であろう。古美術店の店頭で買うより、ネットオークションのほうが安く手に入る場合が多い。しかしながら、やはり実際に手にとって、ためつすがめつ品定めできないのが欠点である。色味やサイズ、手にとった重さなどが思ってたのとちがう、なんてことはよくある。ヤフオクのそば猪口とか、ニセモノが出回ってるので要注意(贋作については後述)。

The best way is to visit antique shops and markets. Internet shopping is convenient but not good for beginners because of inability of examining real color and weight. There are many fakes in internet auctions.

The followings are well-known antique markets in Tokyo where Imari ware as well as other Japanese arts are sold: Antique Jamboree (twice a year at Tokyo Big Sight); Heiwa-Jima Antique Fair (about five times a year); Oedo Antique Market (twice a month at Tokyo International Forum).

2. 古伊万里の相場  Market price

古伊万里は、江戸時代の長きに渡って大量に生産されただけでなく、壊れにくい(耐久性がある)ので、数多くの品が現代にまで伝世されている。よって、だいたいの相場が決まっており、まちがってもそれより安く手に入れよう、なんて思わないことだ。17世紀の古伊万里は、数万〜数十万円はする。初期伊万里、古九谷、柿右衛門などの品物は、昔から骨董品として珍重されてきたものなので、やはり人気の度合いがちがうのである。とくに七寸皿、尺皿とかいったらさらに桁がはねあがる。

ところが18世紀になると、かなり相場が下がってくる。2万円もだせば、それなりに上手(※)の猪口が手に入る。まあだから、今シーズンの洋服をガマンすれば買えるから、、、とか自分に言い訳して、思わず手が伸びる、その程度の値段なのだ。そして19世紀の古伊万里になるともっと安くなる。

結局、個々人の感性がだいじであって、高いからいい、安いから価値がない、というものでもない。わたくしとしては、18世紀の古伊万里は比較的安く手にはいるわりに、アンティークとしての味わいにすぐれており、コレクション・アイテムとして魅力をかんじているしだいである。

※ ある時代の古伊万里製品をくらべたときに、当時の最高品質の材料、最高クラスの職人の手でつくられたと考えられるものを上手(じょうて)という。対義語は下手(げて)。

The 17th-century Imari ware has been valued for a long time, so the price is high (from several ten thousand to hundred thousand yen or more). The 18th-century Imari's price is lower (less than several ten thousands yen), and the 19th-century Imari is more reasonable. Important thing is that what you think good is valuable.

3. なます皿はいかが?  How about Namasu bowl

骨董との出会いは、まさに一期一会で、ビビッときたものは買ってしまったらよいとおもう。が、まずはそんなに値段が高くないものから始めたい、という方には「なます皿(あるいはいわゆる小鉢)」をおすすめしたい。同時代の、同程度の品質の古伊万里で比べると、猪口や平皿は比較的値段が高い。いっぽう、なます皿は相場が安めで、また食卓でつかいやすいのがよい。18世紀の上手の古伊万里でも1万円以下、それほどでないものなら3000円以下で買えるチャンスがある。現代の陶磁器だって、3000円で買えるものはたかが知れてる。同じ値段で江戸時代のジャパニーズ・アンティークが手に入るんだから、安いものである。

キズ物は値段が格段にやすくなる。縁にカケ、ソゲやヒビ(ニュー)があったりしても、実用に差し支えない程度だったら、それは上手の品を安く手に入れるチャンスとおもえばよい。店主の哲学にもよるが、ちょっとのキズで半額以下になることさえある。

Compared between various Imari wares of the same age and of the same quality, plates and cups are relatively expensive. If you don't want to pay much, a Namasu bowl (see the next picture) is good because of generally low price and convenience to use.

なます皿(19世紀初、径 14 cm)。竹林賢人図。この手の器は比較的安く手にはいる。

4. 蓋茶碗もお手頃  Bowl with a lid

これはごはん(白米)をたべるときにつかう、いわゆるお茶碗に蓋がついたもの。皿なんかにくらべて職人の手間は相当だと思うが、意外と値段が安いのでおすすめである。現代では、ごはんを食べるのに蓋は不要だとおもうが、ひっくり返せば小皿にもつかえる。ちょっとキズがあったり、幕末頃のものだったりすると本当に格安なので、ぜひこういうので子どもにごはんを食べさせて、古伊万里の英才教育をほどこしたい。

People in Edo period ate steamed rice with a bowl like the one in the next picture. The price is relatively low.

19世紀の線描きの蓋茶碗。やや大ぶり(径 12 cm)。この手のものは3000 円も出せば手にはいる。

5. 角皿はおすすめ  Square bowl and plate

お皿は丸いもの、という先入観はないですか? 大量生産するには、回転するろくろでどんどん作っていくのが効率的だから、自然と陶磁器は丸くなっていく。しかし江戸時代の古伊万里は、かならずしも同一規格の大量生産にこだわっていなくて、注文品の少数生産の場合もあり、丸くない皿もけっこうあるのだ。そこで四角い皿がおすすめである。

これは見る人のバランス感覚であるが、食卓が丸い器ばかりだと、なんだか冗長で、しっくり落ち着かない。アクセントに四角い皿をつかうと、しまりがあってよろしい(これはたくさんの器を一度にならべる日本人だからこその感覚だろう)。

角なます皿や長皿(縦 10 cm x 横 20 cm くらいの長方形の皿、けっこう深さがあるので、汁たっぷりの魚の煮付けに重宝する)が典型的。その他、変形皿というのがあって、これはひょうたん形だったり、貝の形だったり、いろいろあって楽しい(たとえば冒頭の蝶の皿など)。

Who decided a plate be rounded? There are many square bowls and plates, which are first formed with a wheel and then pressed on a mold. These make a good accent on a dinner table.

観瀑図の角なます皿(19世紀初頭、幅 13.5 cm)。亀甲の型打ち成形。

6. 買うときの注意点  Check points

猪口でも皿でも、平らなところにおいて、ガタツキをチェックすること。高台がゆがんでいて、グラグラ動くものは避けたい。まあ多少ガタついていても、ランチョンマットなど敷いてつかえば、たいてい支障はないものだが(観賞用ならなおさらどうでもいい)。

キズはちゃんとチェックする。できれば店主に念をおしてみる。窯キズ(ヒビがはいっているが、上から釉薬がかかっているもの、など)は、骨董業界ではキズとはみなされず、正規の値段で売ることが許されている。

値切ってみる。骨董業界は、値段はあってないようなもの、という風潮があり、2割くらい、平気で値引きしてくれることがある。買い渋っていると、向こうから値引きをもちかけてくれることがほとんどだが。この辺は、駆け引きというか、コミュニケーションというか、失礼にならない程度に楽しめばいいだろう。

古伊万里の器の多くは、当時からしても高級品であり、お正月や冠婚葬祭などの特別な会食でつかわれた。よってそうした品は、10個組とか20個組など、箱に入れて保管・伝承されており、それがそのまま古美術店で売られることもある。これほしいな、とおもっても、5個セットでしか売ってくれないこともよくある。こういうのをバラして売ってくれるお店は、そう多くない。1個だけなら2万円だが、セットだと10万円で、ちょっと手が出ないな、、、というときは、すなおにあきらめよう(残念っ!)。

これといってほしいものが特段なくても、店主になにかおすすめはあるか、聞いてみる。たくさん品物が陳列されていると、目が慣れてしまって、個々の品物のよさを認識できなくなることがある。言われてみて、たしかにこれはいい品物だ、と気づくことがある。ひとりよりふたり、異なる審美眼があると、新たな発見がある。

とはいえ、店主の話は「話半分」である。向こうは口車にのせて売りたい一心なのだ。自分の審美眼を信じて、本当にほしいものを、冷静に。。。

Some Imari cups and plates are shaky. Put them on a firm flat table before purchase. Check flaws. But, a flaw before baking (e.g. a crack covered with a glaze) is not recognized as a flaw in the market. Some Imari ware is sold as a set of five; you cannot buy them separately. Beat the price (gently).

7. つかい方  How to use

古伊万里は、市場に出る前、ずいぶん長いことホコリをかぶって死蔵されているケースがある(ネズミのフンまみれ?)。よってつかう前に、一度キッチンハイターなどで消毒・漂白しておくのが、精神安定上おすすめである。古伊万里はガラス化した磁器なので、漂白剤で変質したりしない。色絵の器も、基本はだいじょうぶである(ただし漂白剤の使用上の注意をよく読んで、用法をまもること)。17世紀の古伊万里で骨董品的価値の高いものは、必要以上に汚れをとらないほうがいい。汚れもまた味である。

古伊万里は歴史的価値があるものだから、ていねいに扱う。そして次世代に伝えていくべきものだ。地震や災害への備えはじゅうぶんに(ほんとうは桐箱に入れてしまっておくのがいいのだが)。実際に食卓などでつかう場合、洗うときに手がすべってヒビがはいる、なんてことがないように。食卓を古伊万里でうめつくすのではなく、一品くらい古伊万里の皿をつかう、くらいがのぞましいのではないか。そうすれば、その器はていねいに扱おう、という意識がはたらきやすいだろう。

Use a bleach unless the Imari is so old and valuable. Note that old Imari ware has sometimes been kept in a ruined dirty storehouse for more than a hundred years.

8. 古伊万里の魅力とは?

古伊万里の器をながめていて感じることは、いったいクルマも、電気も、動力もなんにもない時代に、これだけの洗練された製品をよくぞつくったものだなあ、ということだ。もちろん土物のいかにも骨董品という陶器だったり、漆器だったり、あるいは建築でもなんでもそうだが、むかしの人っていうのはほんとうにすごい。手仕事の器用さだけでなく、デザインだったり、美意識だったり、むかしのものには味がある。ただ古伊万里に関していえば、「いかにも古臭い」という感じがせず、現代にも通じる(手)工業製品としてのセンスのよさを感じる。江戸時代に、ある程度大量に流通していた工業製品で、現代まで残っているものといったら、実はあんまりないのだ。金属は錆びるし、木は朽ちるし、布は汚れる。つるんとしたあの古伊万里の肌からは、江戸時代の生活文化が、いきいきと感じられる。

補足:贋作について

古伊万里に限らず、あらゆる美術品に贋作(フェイク)があふれていることは、テレビ東京の「なんでも鑑定団」などをみてもあきらか。わたしがおもにあつめている古伊万里の猪口も、とくにネットオークションなどで、ちょっと写真を見ただけでは見破り難い贋作が存在する。古伊万里初心者(わたしもそうだが...)はまず美術館や信頼できる古美術店等で「本物」に触れて、目を養うことが必要である。その上で、贋作をつかまされないためには以下の点に注意すべきと考える。

  • 信頼できる古美術商以外からは買わない。これが確実。
  • ネットオークションでは、その出品者の他の商品もチェックする(aucfree などのサイトで過去の出品履歴も見られる)。その中に「1個でも」あやしい商品があったら入札しない。本物の中にニセモノをまぎれこませる業者もいるかもしれないが、そんなヨコシマな人間とは関わりをもたないことだ。
  • その他、ネットオークション等では以下のような点に注意する:
    • 「珍品」なる形容詞。すでに存在する本物のコピーをつくるより、オリジナルデザインのフェイクをつくるほうが、比較対象がないのでばれにくい場合がある。
    • あえてフェイクにキズ(金直しとかスレ傷とか)をつけることもある。これは古作であることの偽装。
    • どんなに精巧につくったフェイクでも、江戸時代のものとは材料や製造方法がちがうので、どこかに「違和感」がある。
    • 相場より大幅に安い開始価格。
    • 製作時代をあきらかにしない(たとえば「時代」などのあいまいな表現)のは、あとから古作でないと言い逃れするための方便。

付録:古伊万里を買えるお店 My shop list

わたしが実際に足を運んだことのある店の中からいくつかピックアップしてご紹介する。

たさぶろう Tasaburo (Closed)
ここはわたしが古伊万里初心者(いまでもそう変わり映えしてないが)だったころにいろいろおしえてもらったなつかしいお店である。18世紀古伊万里の美をコンセプトに品揃えされていたが、この記事を書いている間に、閉店のおしらせがあった。残念だ。

pukupuku @ Nakamichi Street, Kichijoji 
吉祥寺のなかみち通りに二店舗ある。19世紀古伊万里の食器がたくさんおいてある。

西川  Nishikawa @ Azabu-Juban, Tokyo
麻布十番にある。本店は滋賀県長浜らしい。古伊万里メインだが、他にもいろんな骨董品がおいてある。

だんどりおん  Dentsdelion @ Taito-Ku, Tokyo
こちらも古伊万里だけでなく、その他の古美術・古民具も豊富。

資六画  Shimuka @ Ogikubo, Tokyo
1、2回しか行ったことない。西荻窪にもいっぱい古美術店がある。

前坂晴天堂  Maesaka Seiten-Do @ Nihon-Bashi, Tokyo
日本橋タカシマヤの裏あたりにある。17世紀の最高の古伊万里が手に入る(買ったことないけど)。18世紀以降の古伊万里もあつかっているが、そちらは渋谷の東急本店の8階にはいっている支店のほうが見やすいかもしれない。そこでは年数回お手頃な古伊万里の器をあつめた展示即売会をやっている。本店は大阪・老松通り。

花からくさ  Hana Karakusa @ Nihon-Bashi, Tokyo
前坂晴天堂の並びにある店。日本橋・京橋美術祭り、というのが毎年開かれるので、そういう機会にあの辺の店をまわるのもよい。本店は彦根にあるらしい。

ギャラリー辰巳  Gallery Tatsumi @ Yokohama
骨董市で出会ったことしかない。本店は横浜市らしい。

古美術葵  Kobijutsu Aoi @ Osaka
ここも骨董市で出会ったことしかない。本店は大阪。キップのいいおばちゃん(といったら失礼か...)が店に立っておられる。

てっさい堂  Tessai-Do @ Furumonzen Street, Kyoto
京都の骨董店街、古門前通にある店。店主はたくさん本を書かれている。

古美術萬里  Kobijutsu Banri @ Ashiya, Hyogo
兵庫県芦屋。1回しか行ったことがない。

まだまだいっぱいある。こんなに店がある、ということは、古伊万里の器がいかに大量に現代まで残され、かつ愛されているかの証左となるであろう。