赤谷の苦灰石 Dolomite from Akatani

新潟県新発田市東赤谷 飯豊鉱山
Iide Mine, Higashi-Akatani, Shibata City, Niigata, Japan
幅 width 65 mm / 重さ weight 94 g


苦灰石(CaMg(CO3)2)の結晶は牛乳のような白色で、ツヤツヤしている。先端がとがった方解石(CaCO3)の結晶もいくつかみられる。結晶の表面がギザギザして、形が全体的に湾曲しているのは、苦灰石に典型的なもので、鞍状とか爪状などと形容される。飯豊鉱山は、そのすぐ西隣の赤谷鉱山とともに、スカルン型の鉱床を有し、銅や鉄(赤鉄鉱)などを採掘した。場所は加治川ダムの辺りである。国鉄時代は赤谷線が走り、鉱山専用の軌道もあったが、すべて廃止された。

おなじ東北の釜石、和賀仙人、八茎などの諸鉱山も、赤谷と同様のスカルン型鉱床を有していて、銅や鉄を産出した。ただ一口にスカルン鉱床といっても、それぞれに個性があるようで、ここ赤谷では脈石として苦灰石を多産した。鉄鉱石本体も、たとえば釜石は磁鉄鉱だったり、いろいろである。

Dolomite is milky white and the surface is shiny. There are also some pointed calcite crystals. This may be a typical example of saddle-shape or finger-nail dolomite. Iide and its neighboring Akatani mines have skarn deposits and the main ores were copper and iron (hematite). There was a railway to the mine but it was closed many years ago. In Tohoku district, there are some skarn deposits such as Kamaishi, Waga-Sennin, and Yaguki, which similarly produced copper and iron. However, each mine seems to have its own characteristic, and the Akatani deposit is rich in dolomite.

興味深いことに、この標本には古いラベルがついていた。所持者とおもわれる荒木孝治(1929-2004)は、大学卒業後アメリカに渡り、シカゴ大などで鉱物学を研究した。アラキアイトという鉱物にも名を残す、著名な鉱物学者である。どんな経緯でわたしのような者に渡ってきたのか知らないが、かなり古い標本であることにはまちがいない。

日本人の鉱物研究家の名前がついた鉱物は、小藤石とか若林鉱とか、50種くらいあるようだ(松原聰「日本の鉱物」増補改訂版、学研、2009)。荒木石はあまりにマイナーな存在だからか、アメリカに渡った研究者だからシカトされているのか、よくわからないが、この本にも掲載されていない。日本の学界というのはさもしいものだ。

Interestingly there was an old label with this specimen. It was probably owned by Takaharu ARAKI (1929-2004), who graduated from a university in Japan and moved to the united states to research mineralogy. Arakiite is named after him. There are about 50 mineral species named after Japanese mineralogists. Anyway this must be a very old specimen.

参考

  • おとなり赤谷鉱山の赤鉄鉱と黄鉄鉱の標本。幅は約 5.5 cm。塊状の鉱石標本だが、赤鉄鉱と硫化金属鉱物(黄鉄鉱・黄銅鉱)が共存した鉱床だったことがわかる。

  • むかしの地図には加治川上流の「赤谷鉄山」が記載されている。

  • 復刻版地図帳 昭和48年版 帝国書院 より。 From a student textbook of geography published in 1973.

追記

  • GSJ 地質ニュース 2021年8月号に「地質標本館での日本人名由来鉱物の展示」(佐脇貴幸、産業技術総合研究所、地質調査総合センター)と題する記事がのっていて、鉱物学的には現在有効でなくなったものも含めて 77 種類の鉱物が「日本人名由来」のものとして列挙されている。荒木石も含まれていてほっとした。