秩父の黄銅鉱 Chalcopyrite from Chichibu
埼玉県秩父市中津川 秩父鉱山 大黒鉱床
Daikoku Deposit, Chichibu Mine,
Nakatsugawa, Chichibu City, Saitama, Japan
幅 width 100 mm / 重さ weight 554 g
塊状の硫化鉱の上に黒い閃亜鉛鉱がついて、その上に大粒の黄銅鉱が群生する。黄銅鉱の上には、さらに方解石や、鉄をふくんだ炭酸塩(菱鉄鉱かアンケル石か)の細かい結晶がふりつもっている。すでに紹介した閃亜鉛鉱標本と同じ産地で、雰囲気が似ている。黄銅鉱は一般に四面体状に結晶することが多い。しかしこの標本は、正確な結晶面は同定しがたいが、偏菱十二面体に分類されるものが多いように思われる。そしてそういう結晶は、鏡面のようなはっきりした反射でなく、光の当たり具合によって、ぼやっとしたなんとも言えない輝きをみせるのである。「ビロード状」とか「月光のような」とかいう形容があるが、それに近い。なお、そうした輝きをみせるものはとくに足尾産が有名で、たとえば砂川一郎「足尾図幅内に産する鉱物」(1955)や 地質調査所編「Introduction to Japanese Minerals」(1970)を参照のこと。
Large chalcopyrite crystals grow on a matrix of sphalerite and pyrite. Small calcite and some brown carbonates (siderite or ankerite) are scattered. From the same locality as a previously shown sphalerite specimen. Most crystals form dodecahedron, which shines like a velvet or a moon light. Ashio mine in Japan is renowned for such subtly shining chalcopyrite (see "Introduction to Japanese Minerals", Geological Survey of Japan, 1970).
もうひとつこの標本のおもしろい点は、いくつかの結晶面上に、黒っぽい微小な鉱物が「規則正しく」いくつも並んで付着しているところだ。このような2つの異なる鉱物の規則的な接合をエピタキシー(epitaxy)といい、ある結晶を土台として、その上に別の鉱物が、一定の方向にそろって成長していくことをエピタキシャル成長という。土台となる結晶面上には規則正しく原子が配列しているが、それと似た配置(原子間隔)をもつ別の鉱物が、全体としてあたかもひとつの結晶を形づくるがごとく、強固に連結して成長する。こうした現象はすでに19世紀の鉱物学者によって記載され、どういう鉱物の上にはどんな鉱物が成長する、といったデータベースが構築された。そして20世紀後半になって、エピタキシーは半導体の生産に応用され、われわれの役に立っている。「現代の新技術の多くは、その原形が自然界に見いだせる(だから自然を記述し研究することは意義がある)」といった趣旨のことを「楽しい鉱物学」の著者である堀秀道氏が言っておられたと記憶するが、これはその好例であろう。
Interestingly, tiny black crystals regularly grow on a surface of chalcopyrite, which must be a result of an epitaxial growth.
From an old Japanese textbook of mineralogy written by Denzo Sato in 1925.
ところでくっついている黒っぽい鉱物の種であるが、いまのところ方鉛鉱が有力である。写真では小さな三角形が並んでいるようにみえるが、よく見ると、これらは立方体のカドを切り落としたような形状をしている。大黒鉱床に出る鉱物で、四角くて黒っぽいもの、と思いめぐらし、そう結論しているが、今後、もうすこし調べてみて、あらたな成果がでたらご報告したい。
The species of black crystals is probably galena, because it seems to be a part of a cube. I will report further investigation about it later.