ホリミネラロジーのセール Hori Mineralogy Special Sale

先週ホリミネラロジーのセールがあるというので新宿に行ってきた。めずらしい鉱物やいまでは採集できない往年の著名産地の標本などの放出、という触れ込みだった。

I went to Shinjuku, Tokyo, last week to see a special sale of Hori Mineralogy.

1. ジェスカスガンの斑銅鉱 Bornite from Dzhezkazgan

Dzhezkazgan Mining District, Karaganda, Kazakhstan カザフスタン カラガンダ州 ジェスカスガン
size: 58 × 42 × 31 mm / weight: 88 g

方解石と少量の石英が結晶し、その上に斑銅鉱の単結晶が数個のっている。斑銅鉱(Cu5FeS4)は銅鉱床ではありふれた存在だが、この産地では黄銅鉱(CuFeS2)が酸化されてできる二次鉱物ではなく、初生鉱物としてみられるようだ。しかも単結晶としてこれだけのサイズ(この標本の最大結晶は径 8 mm ほど)に成長するのは地球上ではかなりまれなことらしい。

ジェスカスガンでは古生代の砂岩層中に胚胎する堆積性の銅鉱床を採掘している。この標本にもそれらしき母岩がついており、ホリミネラロジーの「研究用標準標本」の面目躍如といったところか。日本でよくみられるキースラーガーとか黒鉱の鉱床では海底下の火成活動にともなう熱水によって銅が沈殿・堆積したとされるが、ここジェスカスガンではもっと低温の鹹水(濃い塩水)のようなもので銅イオンが運ばれて沈殿したらしい。

Several single crystals of bornite grow with calcite and minor quartz. Bornite is a common mineral in copper deposits usually occuring as a secondary mineral, but in this district it was seen as a primary mineral. It is still rarer that a single crystal comes to this size (about 8 mm in this example). Copper ores in Dzhezkazgan are mined from an layer-type deposit interposed in a Palaeozoic sandstone. In contrast to copper mines in Japan where volcanic hydrothermal activity made the ores, the ore layers in Dzhezkazgan is sandwiched between sandstones generated by sedimentation of copper from lower-temperature brine.

採取時にできたとおもわれる破断面は微妙にチョコレート色っぽい、やや赤みを帯びたつやつやした黒色を呈している。ちなみに斑銅鉱のへき開は不明瞭。
斑銅鉱は生成時は八面体をなしていたが、その後変質していびつな形になったものと想像される。表面には黄銅鉱が付着している。方解石上にも同様に黄銅鉱もしくは他の微細な結晶がみられる。斑銅鉱の表面は青っぽく変質していて(藍銅鉱?)、放射状に伸びる緑色の鉱物(孔雀石?)の「花」がポツポツと咲いている。下の写真の幅は約 5.3 mm。

2. バルマットのサイコロ状磁鉄鉱 Cubic Magnetite from Balmat

ZCA No.4 Mine, Balmat, St. Lawrence County, New York, USA アメリカ合衆国ニューヨーク州 バルマット
size: 50 × 35 × 30 mm / weight: 100 g

磁鉄鉱の立方体結晶。ほとんどキューブ状だが、よくみると tetrahexahedron(四方六面体、面記号だと (015) に相当)の面が出ている。磁鉄鉱は八面体か菱形十二面体になるのがふつうなので、この産地の晶癖はかなり特異的だ。

The magnetite crystals are largely cubic and show tetrahexahedral faces too, which is very rare in magnetite and also rarer in that an almost complete crystal occurs surrounded by halite and talc protection (see an article:  Rocks & Minerals, vol. 83, pp. 224-239, 2008).

補足

  • 下の写真はずいぶん前に別の標本商から手に入れたザンビア北部カッパーベルトの斑銅鉱。石英と共存していて、微量の黄銅鉱もみられる。ジェスカスガンと同様、ここも堆積性の銅鉱床である。鉱床の生成環境に共通点があったのか、おなじように斑銅鉱の結晶がみられるのが興味深い。島崎英彦「鉱石の生い立ち」(明文書房、2016年)によると、カッパーベルトの鉱床ができた当時の環境を復元すると、海岸線に近いところから深海に向けて順に、輝銅鉱、斑銅鉱、黄銅鉱、黄鉄鉱の沈殿がみられるという。

    Nchanga Mine, Chingola, Copperbelt Province, Zambia ザンビア カッパーベルト州 ンチャンガ鉱山
    size: 60 × 40 × 33 mm / weight: 73 g
  • ジェスカスガンの鉱床については Box らによる論文を参照(Dzhezkazgan and associated sandstone copper deposits of the Chu-Sarysu Basin, Central Kazakhstan. Econ. Geol. Sp. Publ, 16, 303-328, 2012)。むずかしくて内容はきちんと理解できないが。。。

  • サイコロ状磁鉄鉱については Rocks & Minerals, vol. 83, pp. 224-239(2008年) を参照。この産地は亜鉛を掘る鉱山だが、鉱床に付随する変質帯で、岩塩やタルクに包まれるようにこうした磁鉄鉱の結晶が出た。したがって周囲の岩塩・タルクなどを掃除してやればほぼ四周完全でつるつるの磁鉄鉱標本が得られる。晶癖のみならずこのような産状もまためずらしい。