相良人形の鯉担ぎ Boy and Carp, Sagara Doll

Width: 11.5 cm / Height: 10.5 cm

大きな鯉を肩に担ぐ少年をかたどったこの土人形は、お顔立ちや衣装の柄などからして江戸期の相良人形(現在の山形県米沢市で江戸後期に創始された土人形)とみてよいだろう。これはあきらかに節句人形のひとつで、子ども、とくに男の子が力強く育つように、との願いが込められている。かつて山形あたりでは3月の節句にこういった土人形を何個も並べて飾りつける風習があった。現代の「ひなまつり」は女の子のものと相場が決まっていて、飾る人形の種類も内裏雛や五人囃子など形骸化しているが、このころはこうした鯉担ぎの他、天神さまや金太郎などの男の子向けの人形も含め、さまざまな人形を一緒に飾っていたようである。

A boy is shouldering a big carp. This would be a piece of the old Sagara that began in the early 19th-century Yonezawa, Yamagata prefecture, Japan. Carp stood for a powerful man who succeeded in his business, as legend said a carp became a dragon after swimming against a waterfall. The local people displayed various clay dolls on the occasion of the doll festival (the third of March). The doll festival is generally regarded as a day for girls at present, but people in Yamagata displayed dolls not only for girls but for boys such as carp, Tenjin, and Kintaro dolls, which were symbols of powerful and clever boys.

耳のところに黒い繊維状の物質が埋め込まれて髪の毛を表現している。緋鯉のつややかさが印象的だ。この顔料は蘇芳(すおう)や黄蘗(きはだ)などの植物由来のもので、古い相良人形に特徴的である。 A fibrous material growing from boy's ears imitates hair. The carp's impressive red color comes from natural dyes made from suo (sappan) and kihada (Amur cork tree), which were characteristic of the old Sagara.

補足

  • 鯉と少年のモチーフの土人形は全国各地、多くの産地でつくられた。以前紹介した堤人形(宮城県仙台市)の鯉かつぎと並べてみたのが下の写真。大きさはほぼ同じで、同じ型からつくったか、とおもわれるくらいだ。一般に相良人形は小型で、底を粘土で閉じているものが多いが、この人形は底が開いていて、堤人形とおなじつくりだ。いっぽう鯉の赤色はどちらも蘇芳色だが、色合いに大きな違いがある。お顔の描き方にもそれぞれ特徴がある。

    右は以前紹介した堤人形。
  • 山形はひなまつり行事が盛んな地域である。とくに紅花の取引で栄えた河北町谷地のひなまつりが有名で、旧家には江戸中期の享保雛など古人形の優品がいまも数多く伝えられている。4月には月遅れのひなまつりが盛大におこなわれているようなので、一度見学に行ってみたいものだ。ただ豪華なひな人形を所有できたのは一部の富裕層に限られ、多くの庶民は安い(といってもそれなりの値段だったろうが)土人形を飾った。江戸後期から明治前期ごろの山形地方では土人形の需要は相当のものだった。しかし明治後期以降、都会の物資や流行が地方にも押し寄せると、きらびやかな「ひな人形」に対するあこがれが増し、地元民の土人形への愛着や興味も徐々に失われていった、というのが実情なのだろう。

  • 山形地域における土人形文化については「山形博物誌」(山形新聞社、1978年)の第10章「郷土玩具と人形」にまとまった解説がある。