東北のどこかの窯のかめ A Ceramic Pot From a Tohoku Pottery

Height: 17.6 cm / Width: 15.6 cm

この中型のかめ(甕)は一見すると秋田の白岩焼か楢岡焼のように思われ、実際これを売った仙台の古物商はそう断言していたのだが、ここ2年あまりのわたしの経験に照らせば、実はもっと別の窯の製品なのではないかと疑っている。まず褐色の下釉(泥釉・鉄釉)は白岩焼とは異なるようにおもえる。典型的な白岩焼がチョコレートみたいなつやのある釉なのに対して、このかめの下釉は黒い斑点が目立ち、全体に暗い感じがする。楢岡焼については経験に乏しいが、もうちょっと砂っぽい、かさかさした感じがあるようにおもう。

This medium size pot looks like a Shiraiwa or Naraoka earthenware baked in Akita, as the antique dealer who sold it said, but I suspect it came from a different place. I think the brown mud glaze of Shiraiwa earthenware has a more chocolate-like luster than this one. Naraoka's mud glaze would have a more sandy texture. 

つぎにその上にかかったなまこ釉も白岩や楢岡とはちょっと色合いが異なる。このかめのなまこ釉は、うすくかかった部分は濃い青だが、厚くかかった部分は白色で、そのコントラストが大きく、まだらになっている。見どころである数本の「垂れ」も、なんとなく作為的な感じがする。白岩や楢岡の「垂れ」は、例外もあるかもしれないが、もうちょっとおとなしい印象だ。さらに底が糸底で切りっぱなしになっているのも特徴的である。白岩や楢岡では、かめの底はきちんと削って高台をつくっているのがふつうだろう。

The overglaze shows a clear contrast between a dark blue thin part and a white thicker part. The downflows give me an impression of artificialness. I think Shiraiwa and Naraoka's glaze is more natural. It is also characteristic that the bottom remains as it was taken away from a pottery wheel using a string. Craftsmen in Shiraiwa and Naraoka usually made a delicate decoration on the bottom of pots.   

 口に欠けがある。底に糸で切った跡がのこっている。

この器にはどことなく仙台の堤焼と共通する特徴が感じられる。白岩、楢岡以外の秋田の産地、もしくは岩手県南部や宮城県北部あたりの窯の製品なのではなかろうか。産地は不明だが、器自体はちょっと背高で見た目がよく、なによりなまこ釉の垂れ具合が大胆で、飾って美しい。

I feel a flavor of Tsutsumi earthenwares, Sendai, about this pot. I guess it was produced at a pottery other than Shiraiwa and Naraoka in Akita, or from the southern Iwate or northern Miyagi districts. Though the birthplace is uncertain, this is a nice vessel with a daring glaze decoration.

補足

  • この手の中型のかめで、底が切りっぱなしになっている白岩焼や楢岡焼の製品の例があるかどうかは、正直わからない。台所用品ではない火入れや花瓶などはさておき、白岩のかめはほぼ例外なく高台が削ってあるようにおもうが、実際はどうなのだろう。楢岡焼については「楢岡焼 楢岡焼大杉古窯からの出発」(大仙市文化財調査報告書、2012年)に掲載の発掘品が参考になるが、見た感じではお茶碗のような出っぱった高台か碁笥底高台になっているのがふつうである。ただし楢岡の大型のかめに関しては、高台をけずっていないものもあるようだ。楢岡のなまこ釉はかなり変化に富んでいて、本品に似た感じの釉がかかった製品もある。

  • 19世紀の秋田地方には数多くのやきもの産地が存在した。藤原茂「秋田のやきもの」(平凡社「日本やきもの集成1 北海道 東北 関東」、p120-123、1981年)にはぜんぶで30ヶ所ほどの産地が記載されている。たとえば旧仙北郡域には、比較的メジャーな白岩焼、楢岡焼、栗沢焼以外にも、旧西木村の仙右衛門焼、旧中仙町の大神成(おおかんなり)焼などがあったし、また秋田県南部にも旧平鹿町の中山焼、旧羽後町の堀内焼などがある。これらの窯は大雑把に言えば「白岩系」で、規模こそ大きくなかったものの、それこそかめや徳利などの生活用品を生産し、地元の需要にこたえた。

  • 19世紀の岩手や宮城にも多くの陶器窯があった。この手の陶製品に関してはまだまだわからないことが多い。