鉱物の磁性 Magnetic Properties of Minerals

鉱物の磁性についていろいろしらべたので、せっかくなのでまとめておこうと思う。上の写真は秋田県鹿角市尾去沢鉱山産の菱マンガン鉱(右)と、栃木県鹿沼市日瓢鉱山産のパイロクスマンガン石の標本(左)とに、東急ハンズで買ったネオジム磁石(直径 5 mm、厚さ 1.5 mm、公称 2500 ガウス)をくっつけたようす。ぎりぎりくっつくかどうか、というくらい。
I looked into mineral's magnetism and made a summary of my understanding. The photo shows that two specimens of rhodochrosite from Osarizawa mine, Kazuno city, Akita, and pyroxmangite from Nippyo mine, Kanuma city, Tochigi, both attract neodymium magnets (𝜙 5 mm × 1.5 mm, 2500 gauss).

磁性の種類

磁石に引き寄せられる性質のことを磁性とよぶ。磁性には、おおざっぱにいって「強磁性」と「常磁性」の2つがある。あらゆる物質は、磁性の違いによって、「強磁性体」と「常磁性体」のいずれかに分類できる。
Any substance can roughly be classified into ferromagnet and paramagnet.

種類
Type

磁石へのくっつきやすさ
How magnetically attractive?

自分も永久磁石になれるか?
Can be a permanent magnet?


Example

強磁性
Ferromagnetism

すごくよくくっつく
Very much

なれる
Yes


Iron

常磁性
Paramagnetism

ほとんどくっつかない
Almost never

なれない
No

その他大勢
Mojority

一般に、ある物質 A に、ある強さの磁石 M を近づけると、物質 A も弱い磁石になる(磁化する、という)。物質 A の磁石としての強さが、近づけた磁石 M の強さの何倍になっているか、をあらわす数値を磁化率(または磁気感受率、帯磁率)という。強磁性体は磁化率が大きく、磁石によくくっつく。常磁性体の磁化率はゼロに近く、ほとんどくっつかない。また強磁性体は、磁石 M を遠ざけても、磁石のままでいられる(いっぽう常磁性体はもとに戻ってしまう)。磁場ゼロの環境で、強磁性体がもつ磁化のことを、自発磁化とか残留磁化とよぶ。そもそも永久磁石とは、残留磁化が異常に強くなるよう工夫した強磁性体のことだ。あと強磁性の物質でも、温度を高くすると常磁性体に変化する。強磁性でいられる限界温度のことをキュリー温度といい、その温度は物質によって異なる(たとえば鉄は750℃)。

ちょっとまぎらわしいが、強磁性のことを単に「磁性」という場合がある。たとえば「鉄は磁性があるが、アルミニウムには磁性がない」という言い方をする。ただアルミニウムみたいな常磁性の物質も、磁石を近づけられたら、人間の感覚ではとらえられないくらいの、ごくごく弱い磁石に変化する。

Any substance, A, generally becomes a magnet when a permanent magnet, M, comes near. The ratio of the magnetic intensities of A to M is the magnetic susceptibility. A ferromagnet is magnetically highly attractive because of high magnetic susceptibility, and a paramagnet is not because of tiny susceptibility. A ferromagnet can be a permanent magnet even if the magnet M disappears (remanent magnetization). A ferromagnet changes to a paramagnet when the temperature becomes very high.

強磁性鉱物

さて、強磁性を示す鉱物は数えるくらいしかない。もっとも顕著なのが磁鉄鉱(Fe2+Fe3+2O4)で、これは磁性鉱物の横綱である。大関クラスが磁硫鉄鉱(Fe7S8)で、関脇に赤鉄鉱(Fe2O3)、といったところか。野外で石を観察するとき、磁石があれば、つくかつかないかで、これらの鉱物の存在を検知できる。

Ferromagnetic minerals are rare in nature. Magnetite is presumably the yokozuna of magnetic minerals, and pyrrhotite and hematite follow as ozeki and sekiwake.

磁化率の大きい常磁性鉱物

それ以外の大多数の鉱物は常磁性を示すが、磁化率の大きさには、鉱物種ごとにけっこうなばらつきがある。たとえば藍鉄鉱(Fe2+3(PO4)2・8H2O)や菱鉄鉱(FeCO3)は、磁気感受性が比較的強く、磁性鉱物の番付でいったら幕内上位だ。これらは鉄を含む鉱物なので、さもあらんというところ。灰鉄輝石(CaFe2+Si2O6)とか、鉄を含むざくろ石(アルマンディン Fe2+3Al2(SiO4)3)も同様の強さをもつ。ただし鉄を含むからといって、かならずしも磁化率が大きいとは限らない。たとえば黄鉄鉱(FeS2)の磁化率はほぼゼロで、序二段かせいぜい三段目レベルだ。

意外なのがマンガンや銅を含む鉱物だ。冒頭の写真で示した菱マンガン鉱(MnCO3)は、前頭筆頭でもおかしくないぐらいの磁化率をもつ。バラ輝石(ロードナイト)やパイロクスマンガン石(ともに MnSiO3)なども、なかなかの実力者である。磁石の力で鉱石を選別することを「磁選」というが、北海道の稲倉石鉱山では、マンガン鉱石を磁選していた。黄銅鉱(CuFeS2)の磁化率は、幕下クラスの弱さだが、その二次鉱物である孔雀石(Cu2(CO3)(OH)2)なんかは、けっこう磁石を引き寄せる(十両くらいか)。ちなみに元素の周期律表をみると、左から「マンガン・鉄・コバルト・ニッケル・銅」と並ぶ。真ん中の三種は、単体で強磁性を示す。その両脇を固めるマンガンと銅が、磁性になんらかの影響を及ぼしているのか?この辺になると、わたしにはあまりに専門的すぎて、お手上げである。

Almost all minerals show paramagnetism, but the susceptibilities substantially vary depending on species. Vivianite and siderite are magnetically highly susceptible, as suggested by inclusion of iron. Hedenbergite and almandine are also magnetically high-ranking minerals. Not all minerals containing iron have high susceptibility. Pyrite, for example, is a very weak magnetic mineral. Some minerals containing manganese and copper unexpectedly have high susceptibility. Rhodochrosite and pyroxmangite rank high as shown in the top photo. Inakuraishi mine, Hokkaido, applied magnetic separation for manganese ores. Chalcopyrite is a weak magnetic mineral but secondary generated malachite is significantly strong probably ranked as juryo.

磁性で鉱物を見分ける

強磁性鉱物はもちろんのこと、常磁性鉱物でも比較的大きな磁化率をもつものがあり、鉱物の鑑別に際して磁石は有用である。とくに固溶体を形成する鉱物グループで、鉄の含有量、マンガンの含有量などの当たりをつけるのに、威力を発揮する。さいきんは小さくて強いネオジム磁石が数百円ほどで手に入るので、いろいろと応用がありそうだ。

A small and strong permanent magnet (e.g. neodymium magnet) is a powerful tool to identify mineral species, especially in roughly estimating iron or manganese content of a mineral that forms solid solution.

種々の鉱物の磁化率をまとめた表があれば便利なのだが、ネットで閲覧できる資料としては

というのがあった。これを参考に、比較的なじみのある鉱物(基本的には堀秀道著「楽しい鉱物図鑑1・2」に掲載されている鉱物)を、その磁化率の大きさの順に、相撲の番付風にならべてみた。別にわたしが実験して磁化率を測定したわけではないので、多分にわたしの偏見が含まれている。くわしくは上の文献を参照のこと。なお同じ鉱物種でも磁化率は一定しない。それがまた、産地や成因と関係があったりして、おもしろいとおもう。

I found a reference summarizing magnetic susceptibility of various minerals, and made a ranking table below like the Grand Sumo Tournament.

磁性鉱物番付 2019年3月場所

理事長: 鉄 Iron
年寄: コバルト Cobalt、ニッケル Nickel
行司: ネオジム磁石 Neodymium magnet、呼出: bekomochi


East

西
West

磁鉄鉱 Magnetite
Fe2+Fe3+2O4

横綱
Yokozuna

-

ペントランド鉱 Pentlandite
(Fe,Ni)9S8

大関
Ozeki

磁硫鉄鉱 Pyrrhotite
Fe7S8

赤鉄鉱 Hematite
Fe3+2O3

関脇
Sekiwake

フランクリン鉱 Franklinite
Zn2+Fe3+2O4

ブラウン鉱 Braunite
Mn2+Mn3+6(SiO4)O8

小結
Komusubi

藍鉄鉱 Vivianite
Fe2+3(PO4)2・8H2O

菱マンガン鉱 Rhodochrosite
MnCO3

前頭1
Maegashira

鉄ばん柘榴石 Almandine
Fe2+3Al2(SiO4)3

バラ輝石 Rhodonite
CaMn4(Si5O15)

パイロクスマンガン石 Pyroxmangite
MnSiO3

鉄かんらん石 Fayalite
Fe2+2SiO4

菱鉄鉱 Siderite
Fe2+CO3

テフロ石 Tephroite
Mn2SiO4

チタン鉄鉱 Ilmenite
Fe2+TiO3

灰鉄輝石 Hedenbergite
Ca(Fe,Mg)Si2O6

緑泥石 Chlorite
(Mg,Fe)5Al(Si3Al)O10(OH)8

満ばん柘榴石 Spessartine
Mn2+3Al2(SiO4)3

クロム鉄鉱 Chromite
Fe2+Cr3+2O4

カミントン閃石 Cummingtonite
(Mg,Fe)7(Si8O22)(OH)2

珪灰鉄鉱 Ilvaite
CaFe2+2Fe3+(Si2O7)O(OH)

スコロド石 Scorodite
Fe3+(AsO4)⋅2H2O

ストレング石 Strengite
Fe3+(PO4)⋅2H2O

星葉石 Astrophyllite
K2NaFe2+7Ti2Si8O28(OH)4F

ヘルビン Helvine
Be3Mn2+4(SiO4)3S

バスタム石 Bustamite
CaMn2+(Si2O6)

10

イネス石 Inesite
Ca2(Mn,Fe)7Si10O28(OH)2⋅5H2O

鉄雲母(黒雲母) Annite
KFe2+3(AlSi3O10)(F,OH)2

11

エジリン Aegirine
NaFe3+Si2O6

未完 (to be continued)

補足

  • 磁性を強磁性と常磁性の2種類にわけたのは、学術的にはあまりにおおざっぱすぎたと思われる。磁石を近づけると反発する性質(反磁性)をもつものもある。磁鉄鉱はふつうの強磁性体でなく、フェリ磁性と分類されるそうだ(よくわからんが)。くわしいことは物理学の専門書を参照のこと。

  • 磁石をつかった鉱物の見分け方については「楽しい鉱物学」(堀秀道、草思社、新装版 1999)にていねいな記述がある。鉱物鑑定の指南書は、他にもいくつか出版されているが、せいぜい磁鉄鉱が磁石につく、くらいの記述にすぎないものが多く、ちょっと物足りない。

  • 「鉱物肉眼鑑定事典」(松原聰、秀和システム、2017)は、主要鉱物 116 種に対してネオジム磁石がどの程度反応するかていねいに書いてある。

  • マンガン鉱石の磁選については、青柳泉、稲倉石鉱山の鉱脈の配列規制の解明と選鉱操業の合理化について、日本鉱業会誌 No. 962(1968) に説明がある。

  • わたしの理解が及んでないところが相当あると思うので、まちがったことを書いていたらコメント欄からご指摘ください。コメントは非公開にできます